15-9 実験。




 その実験をいつ行うのが正解なのか、ボクとロイドは話し合った。

 課外授業の成果という名目なので、本当は課外活動時間内にするのがいいのかもしれない。だが、魔法に関しては半端ない探究心を持つ先輩達の前で披露するのは、リスクが高かった。


(嘘が見抜かれそう)


 そう思ってしまう。

 その思いはロイドも同様のようで、実験するならクラスメート達の前が無難ではないかと提案した。


「ボクもそう思うけど、課外活動の成果を授業で試すのって、不自然じゃない?」


 小さく首を傾げる。


「まあ、不自然だな」


 ロイドは認めた。


「だが、屋外の実技場を生徒が使えるのは年に数回しかない。その時についでに……ということにすれば、そこまで不自然ではないだろう」


 苦く笑う。


「確かに」


 ボクは納得した。

 屋外の実技場はいつでも使えるわけではない。実技場への移動はどこでもドアみたいな転移の魔法が掛ったドアを使う。それは先生の魔法だが、頻繁には使用できなかった。多くの生徒が一度に移動するので、ドアはずっと維持しなければいけない。それは多くの魔力を消費した。不足する魔力は魔石で補うので問題はないが、その魔石はタダではない。経費を考えると、一クラスが実技場まで移動できるのは年に三回ほどだ。ちなみに、騎獣などで移動すると飛行移動だけでほぼ一日かかるらしい。


「次の実技場を使った実技っていつ?」


 ボクはスケジュールを聞いた。


「来週」


 ロイドは小さく笑う。タイミングはばっちりだ。


「じゃあ、その日にしよう」


 ボクはニッと悪い顔で笑う。


「そういう顔も可愛いね」


 ロイドはボクにメロメロになった。抱きつこうとするので、さっと逃げる。


「……」


 ロイドは恨めしげにボクを見た。


「このくらいのご褒美、あっても良くないか?」


 真顔で問う。


「ボクはそんなに安くない」


 ボクは言い返した。






 翌週、クラスメートの前でボクの実験は行われた。実技の時間外に、ついでにやる。見学の義務はないが、みんな興味津々だった。見たがる。それは実験内容が、人間の言葉が喋れるようになる魔法だったからかもしれない。成功すれば、大変な快挙だ。そんな魔法、誰も見た事がない。

 危険なので、生徒達は離れた所から見守ることになった。最終的に小さな爆発が起こる予定なので、当然だろう。


 実験前、近くに住む妖精達には会いに行った。小さな爆発が起こることをあらかじめ伝える。驚いて干渉されたらややこしいことになるので、気にしないでくれと伝えた。爆発は故意に起こすものであり、危険はないと説明する。

 妖精は微妙に納得出来ない顔をしていたが、ルーベルトが間に入って取り持ってくれた。

 知らぬ間に、ルーベルトと妖精達はだいぶ打ち解けている。ボクやアルバートのしらないところで、妖精達は度々、ルーベルトの所に遊びに来ていたそうだ。

 妖精達と順調に関係を深めていることを素直に褒め称えると、自分も何もしていないわけではないと胸を張られる。ルーベルトはルーベルトなりに、いろいろと思うことがあったようだ。

 アルバートはなんだかんだって魔力も多いし器用なので、たいていのことは人より上手く出来る。ボクはボクで、いろんな意味で特異だ。そんな中、ルーベルトは自分1人が平凡に思えたらしい。コンプレックスを感じていたようだ。アルバートともボクとも違う形で何か……と求めた結果、妖精と仲良くなって精霊使いとして一人前になろうと決めたらしい。そんなルーへルトの決意を、ボクは初めて知った。少年は知らぬ間に成長するらしい。




 準備が整い、ボクは実験を開始した。遠巻きに眺めている沢山の視線を感じる。そういうのを全てシャットダウンして、心の中で呪文を唱えた。

 脳裏に魔法陣を思い浮かべると、空中にそれが出現する。魔法陣は蒼く光っていた。とても美しいが、普通の人にはそれはただの蒼い光の塊にしか見えないらしい。それを魔法陣として認識するには適性が必要のようだ。ちなみに、アルバートは起動している魔法陣なら見えるらしい。ルーベルトは見えないそうだ。

 ざわざわとギヤラリーのざわめきが大きくなる。ほとんどの人には魔法陣は見えていないようだ。

 そんな中、王子がじっと魔法陣を見ていることに気づく。


(やばっ)


 ボクは心の中で呟いた。さすが王子様、魔法陣は見えているようだ。


(魔法って、わざと失敗するのも難しいんだよね)


 ドキドキと鼓動が早鐘のように打つ。

 魔法陣が起動する直前、ボクはわざとミスした。脳裏に思い浮かべていた魔法陣を消す。それだけで、起動しかけていた魔法陣は弾けた。そのタイミングでこっそり、ロイドは爆発を起こす。ボクの研究資料が一瞬で燃え上がった。


「きゃあっ」


 驚いた女生徒の誰かが声を上げる。

 ボクもロイドもギクッとした。怪我をしたのかと心配する。だが、女生徒は驚いただけだった。

 ボクは慌てた様子で、消化する。必要以上の水を出したのは、焦った演出と燃え残った紙を復元できないように粉々にするためだ。目論見通り、火は消えたが紙もちりぢりになる。ここまでしたら復元は魔法でも不可能だろう。


「びっくりしたにゃあ」


 ひときわ大きな声で、ボクは叫んだ。ほっと安堵を顔に浮かべる。

 ざわっ。

 ボクの声を聞いた生徒達が騒ぎ出した。


「これって成功なの?」

「いや、爆発したんだぞ。失敗だろ」

「でも、喋っているよ」


 みんな困惑している。


「語尾が変だにゃ。これって失敗かにゃ?」


 ボクは白々しく、ロイドに尋ねた。きょとんと可愛い顔で小さく首を傾げる。

 我ながら、くさい芝居だと思った。


「途中までは成功したってことじゃないか?」


 ロイドは答える。


「検証はとりあえず、後にしよう」


 そう言うと、生徒に声を掛ける。


「静粛に」


 みんなを落ち着かせた。


「本日の授業はこれで終了にする。みんな、速やかにドアから学園に戻るように」


 生徒達を促す。この場に留まる理由も特にないので、生徒達はぞろぞろ戻っていく。

 ボクは念のため、ちりぢりになった資料を集めた。ゴミとして纏める。何一つ残さないように注意して、実技場を去った。

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