15-8 裏の事情。




 いろいろ話し合った結果、ロイドが実験に直接関わるのは後々不味いことになるかもしれないので止めた。

 動物が喋れるようになる魔法を作り出すことに成功すれば、それは莫大な資産を生むかもしれない。下手にロイドが関わると、ややこしいことになりそうな気がした。

 実験は失敗する予定だが、途中までは成功する。ある程度成功するなら、根本的には間違っていないことになる。失敗した魔法を改良すれば成功する可能性があるから、研究を続けてくれという話がどこからか出るかもしれなかった。ボクならその依頼を断れるが、ロイドにはいろいろとしがらみがある。

 拒否できても、その事が今後のロイドの人生に悪い影響を与えるのは申し訳ないと思った。

 この実験はボクが課外授業で行い、失敗し、研究資料は全てその場で燃えてしまうという筋書きにする。失敗して爆発が起こり、資料に火がついて全て燃えてしまう予定だ。


 ロイドには課外授業の担当教官として、ボクの実験を見守るために立ちあってもらう。だが実際には、小さな爆発を起こして実験を失敗したように見せる役目を頼んだ。


「問題はそれっぽく見える魔法を嘘でも作らなきゃいけないことだにゃ」


 ボクは渋い顔をする。


「本当に起動すると困るけど、まるっきりでたらめではクラブの先輩達はだませないにゃ」


 天才達の前で実験するのは困難だと思った。先輩達は基本、他人には興味が無い。そういう変わり者が集まっていた。だが、魔法には興味がある。実験にはおそらく、食いついてくるだろう。


「いっそのこと、事情を話して協力を求めるのはどうだ?」


 ロイドが珍しく、弱気な提案をする。魔法に関しては人一倍真摯な生徒達は簡単には騙されない。用意するニセの魔法はかなりの精度が求められる。それはロイドを持ってしても、簡単なことでは無かった。


「それは無理だにゃ」


 ボクは首を横に振る。秘密を知るものは少なければ少ないほどいい。下手な借りは作りたくなかった。その借りを返すのはたぶんボクではなく、ロイエンタール家だから。アルバート達に迷惑は掛けたくない。


「無理は承知で、お願いしますにゃ」


 ボクは頭を下げた。協力を求める。


「可愛い子に頼まれたら、断れないけどね」


 ロイドは苦く笑った。


「にゃーん」


 可愛らしく鳴いて、ボクはにこにこと笑う。


「おいで」


 ロイドは手を広げた。ボクはソファを下りてロイドのところに行く。ロイドはボクを抱き上げ、自分の膝に座らせた。ボクはロイドの胸に凭れて、甘える。


「自分が可愛いってわかっていてそういうことするの、本当にあざとい」


 ロイドは文句を言いつつ、ボクの頭を撫でた。ネコミミを触られて、くすぐったい。ボクはぶるっと小さく身震いした。


「ところで、なんで王子様は編入生なの?」


 前々から聞きたいと思っていた事をこの際だからと口にする。


「来年度の新入生ではダメだったの?」


 この学園で実質的な決定権を持っているのはロイドなので、問うた。


「あー、それね……」


 ロイドは露骨に眉をひそめる。面倒だという顔を隠さなかった。


「編入したいというのは王子の希望だけど、こちらも他の新入生達を迎えるタイミングで王子の世話もするより、すでに手がかからなくなった1年生の中に混ぜる方が簡単じゃないかという結論に達したんだよ」


 説明してくれる。


「なるほど」


 ボクは納得した。確かに、右も左もわからなくてオロオロしている新入生の中に王子を入れるより、今の方がいいだろう。

 事実、王子が入っても教室の中はあまり変わらなかった。教室の中の人間関係はすでに出来上がっている。


 王家の要望を受けて、職員会議が何回も開かれたそうだ。今まで、王族の入学は受け入れていない。防犯の問題など、いろいろとあるからだ。王子の安全はもちろんだが、王子が居ることで他の生徒に危険が及ぶのはもっと不味い。だから当初は入学を断わる予定だったそうだ。だが王子自ら、職員会議の場に転移で現われたらしい。そして自分も皆と共に勉強したいと勉学への意欲を熱く語ったそうだ。そのスピーチに感動して、教官達は折れたらしい。


「実際、教室では王子は上手くやっているだろう?」


 ロイドは聞いた。


「確かに」


 ボクは頷く。


「王族とは思えない気遣いが出来ているにゃ」


 褒めたのに、ロイドは困った顔をした。


「それ、褒め言葉ではないから人前で言ってはいけないよ」


 注意する。


「わかっているにゃ」


 王族に王族らしくないは褒め言葉ではないだろう。ボクは嫌味で言ったわけではないけれど。


「お喋りが出来るようになるのは不安だな」


 ロイドはボクを見て、真顔で言った。優しく頬を撫でられる。


「……気をつけるにゃ」


 ボクは約束した。

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