15-6 お世話かがり
ボクは1人、部屋を出た。少し背伸びをしてドアノブに手を掛け、ドアを引く。目の前に立ち塞がるように護衛騎士の背中があった。入るときはいなかったが、ドアの前に護衛騎士が立っていたらしい。
ドアが開いた音に、彼は振り返った。ボクを見る。
「……」
そのまま、無言で見つめられた。ネコの獣人が珍しいのだろう。彼の視線はボクのネコミミに向けられている。精悍な顔立ちのイケメンで、見つめられて悪い気はしなかった。だが、通れないので避けて欲しい。
「にゃあ」
一声鳴くと、彼はすっと身を寄せた。
「失礼」
立ち塞がったことを謝られる。きちんと謝ってくれたので、印象は悪くなかった。
食堂に戻ると、ざわついている。沢山の視線を感じた。みんな、奥の部屋が気になっていたらしい。
常日頃、興味本位な視線に晒され慣れているボクでさえ、ちょっとたじろぐ。だが、気になるのはもっともだとも思った。
ボクは視線を無視して、配膳を受ける列の最後尾に向かった。
普段、ボクの移動は抱っこなので、トテトテ歩く姿は結構レアらしい。歩いているだけなのに、はうっと息を飲む音が聞こえた。ボクの姿に、萌えている人がいるらしい。
「ノワールちゃん」
不意に、声を掛けられた。クラスメートかと相手を見ると、先輩だ。たまに食堂で顔を合わせる令嬢で、彼女はすでにボクの下僕と化している。なにかとお菓子をくれるし、頭を撫でたがった。基本的に女の子は力加減が優しいので、ボク的にはウェルカムで受け入れている。反対に男の子は加減が出来ない馬鹿力がたまにいるので、慎重に触っていい人間は選んでいた。
彼女の後ろには、いつも見る彼女の友達の令嬢が2人ほどいる。彼女たちは下僕というほどボクに絡んで来ないが、少なくとも嫌われてはいないだろう。親切にされているとは感じていた。
「1人でどうしたの?」
彼女は心配する。
人より小さなボクは普通に立っていると人波に埋もれる。混み合う食堂は何かと危険だ。
「にゃあ」
ボクは配膳を受けている列を指さす。
「もしかして、お替わりをもらいに来たの?」
察しよく、問われた。
「にゃあにゃあ」
ボクは二回鳴く。耳をびくびくと動かして、ちょっと媚びるように見上げた。
彼女は愛らしさに目を細める。
「じゃあ、お手伝いしてあげる」
そう言うと、ボクに手を差し出した。ボクはその手を素直に掴む。列まで連れて行かれ、彼女がボクの食べたいものを取ってくれた。お友達の2人も後ろから付いてくる。ボクが他の人から押されたり潰されたりしないようにガードしてくれた。何気に心強い。
「どれが食べたいの?」
トレイを持った彼女はボクに聞く。ボクの返事は基本、「にゃあ」しかないので、指を指した。
「これ? それとも、これ?」
彼女は確認する。
ボクはそれに頷いたり、首を振ったりして答えた。自分の食べたいものだけ、取ってもらう。
気づいたら、トレイの上は山盛りだ。
(ちょっと取り過ぎた?)
少しばかり、反省する。でも、ボクには食べられる量だ。
彼女はそのまま奥の部屋の入り口までトレイを持ってくれた。
護衛の騎士はじろりと彼女を見る。彼女はもちろん、中には入れない。
「あの……、これ」
彼女は護衛騎士にトレイを差し出した。
「お預かりします」
意味を理解して、騎士は受け取る。部屋に入れるのはボク1人だ。本当は、自分でトレイを持たなければいけない。だが、ボクが持つにはトレイは山盛り過ぎた。どう見ても、重い。
「お願いします」
彼女はトレイを渡すと、ボクを見た。
「じゃあ、ね。またね」
小さく手を振って、去って行く。
「にゃあ」
ボクは鳴く見送った。
護衛騎士は彼女たちが適度に遠ざかるのを待って、ボクを促す。部屋に入った。
ボクの姿に気づいたルーベルトがさっと立ち上がり、護衛騎士からトレイを受け取る。それをテーブルに置いてくれた。
トレイを見て、王子はぎょっとする。
(?)
その反応に、ボクは不思議に思った。
「ずいぶんと食べるんだな」
王子は感心する。ボクがたくさん食べることに、今、気づいたようだ。
(最初に顔を合わせたお茶会でも、1人でばくばくお菓子を食べていたんだけどな)
どうやら、興味がないから忘れているらしい。
「人化はお腹が空くみたいです」
アルバートがボクの代わりに説明してくれた。
「そうか。大変だな」
王子は気の毒そうにボクを見る。
王子の方が大変なことを知っているボクは、『王子ほどではないです』と心の中でだけ言い返した。
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