15-3 困惑。(アルバート視点)





 編入生だと紹介されたランドールを見て、アルバートが最初に感じたのは困惑だった。

 編入してくることはもちろん、知らなかった。

 知っていたの?--そう問いたげな目をノワールに向けられるが、違うと首を横に振る。


 ランドールとはノワールが王女に招かれる度に、ちょこちょこ王宮で顔を合わせていた。王子には同じ年頃の友人はいないらしい。本来なら同じ年頃の貴族を側近として側に置いていて然るべきだが、王女との諸々でそれは先送りになっていたようだ。

 そういう意味では、王子は寂しかったのかもしれない。アルバートに親しくしてくれた。

 ロイエンタール家としては、王子と親しくしておいて損はない。ランドールは王太子で、何もなければ次期国王だ。

 嫡男であるアルバートはそれなりの使命感を持って、ランドールに接する。


 そんなアルバートにランドールは学園での生活を聞いた。ランドールは小さな頃から家庭教師とワンツーマンでの授業しか受けたことがない。みんなと一緒に学ぶというのがなんとも不思議で、気になった。

 アルバートは学園生活のことをいろいろ話す。

 もっとも、アルバートは自分が普通の学生生活を送っているとは考えていなかった。そのため、一般的な生徒の話をする。

 ランドールは学園にとても興味を持った。

 アルバートは軽い気持ちで、学園に通ってはどうかと提案する。

 そうすれば、同じ年頃の友人も出来るのではないかとアドバイスした。


 それはもちろん、途中から編入しろという意味ではない。来年、入学したらどうだという話をしたつもりだ。そもそも途中から編入できる制度があるなんて、アルバートは知らない。そんな前例、聞いたことがなかった。

 もしかしたら、王家の力で無理を押し通したのかもしれない。


(編入生として入ってくるとは)


 アルバートは困った。自分の一言で入学を決めたのなら、素知らぬ顔は出来ない。ある程度は面倒を見なければいけないたろう。

 そういう意味では、アルバートには責任感があった。


 ランドールは最初からその気だったのか、アルバートを頼る。それを無碍に出来るわけがなかった。

 結局、アルバートはあれこれとランドールの世話を焼く。




 それだけなら、手がかかる相手が増えただけなのでさほど苦でもなかった。ランドールの世話をしてあげるくらい、ついでのようなものだ。アルバートには基本、世話焼きのところがある。今回はそうでもないが、少なくとも前回はちょっとお節介なところがあった。

 しかし、アルバートが家のことを考えてランドールに気を遣うように、他の貴族達も親から言われていた。ランドールに群がる。


 ランドールは王太子の割に高飛車なところがない。付き合いやすい少年だ。ランドールの周りにはいつも沢山の人が集まってきた。


 その人の多さに、ノワールとルーベルトが辟易する。アルバートとランドールから少し離れた。

 人波の向こうに座る。

 それはアルバートにとってゆゆしき問題だ。

 可愛いノワールからは片時も離れたくない。離れると言ってもわずか数メートルだが、その数メートルがアルバートには耐えられなかった。

 アルバートには前世で、離れている隙に永遠にノワールを失った過去がある。あの二の舞はもうごめんだ。

 自分の感情と家の利益をアルバートは天秤にかけた。

 そして自分の感情を優先する。


「王子。せっかくみんなと仲良くなったんですから、たまには他の者と机を並べて辺境するのもいいと思います」


 そう言い残して、王子の側から離れる。

 そんなアルバートを見て、ノワールはぎょっと目を丸くした。


(そんな顔も可愛い)


 アルバートはふふっと心の中で笑う。


「ノワール」


 抱き上げて、自分の膝の上に座らせた。

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