15-2 友達。





 王子が友達を欲しがっているのはボクも気づいていた。自分に関係がない話なら生暖かく見守る。友達が出来たらいいねと応援する気持ちが無いわけではなかった。

 だが、王子が友達になりたいのはたぶんアルバートだ。


(それはちょっと……)


 心の中で、ボクは拒否する。

 王子は悪い人ではない。多少尊大なところがあるが、それは生い立ちを考えたらむしろ当然だろう。問題はそこではなかった。

 王子と親しくするということは、王家が絡む煩わしいことに巻き込まれるということになる。


(王家と適度な距離を取るための、今までの努力は一体……)


 虚しさを覚えた。


 そもそも王女を助けてあげようなんて仏心を出したのがそもそも間違いだったのかと反省する。

 だが、王家がごたごたしていて国が乱れるのも困るのだ。ボクは今の平和で豊かな暮らしをずっと続けたい。

 王家には問題を起こさず、平和な国を維持して欲しい。ごたごたを起こして他国につけいる隙を与えるわけにはいかないのだ。


(仲良くやってもらうために頑張ったのにな~)


 その努力は無駄ではなかったようだが、王家と距離を取ることには明らかに失敗していた。

 しかも、教官は何やらこちらの方を指さして、ランドールと話している。

 何を話しているのかは距離があるので聞こえないが、だいたい予想がついた。

 ランドールが近づいてくるのを見て、自分の予想が外れていないことをボクは察する。


「隣、いいかい?」


 ランドールはアルバートに聞いた。


(ダメです)


 ボクは心の中で即答する。だがもちろん、アルバートは断わらなかった。


「どうぞ」


 笑顔で受け入れる。

 それに対するランドールも笑顔だ。

 はうっと女生徒が息を飲む音が聞こえる。美少年2人の笑顔の応酬はそれだけでキラキラしていた。見ているだけなら眼福だと、ボクも思う。


 2人はどうやら気が合うようだ。傍から見ても親しいのがわかる。

 王子は編入が急だったので、教科書とかが揃ってなかった。そもそも、編入生なんて想定していないから余分な教科書などないのかもしれない。相当、無理を言ったようなのが窺えた。

 アルバートは王子に教科書を見せてあげる。身を寄せ合う姿はどう見ても仲良しだ。


(アルバートに友達が出来るのは吝かではないんだけど。王子というのがな……)


 ボクは複雑な気持ちになる。親みたいな心配をした。

 アルバートはいつもボクやルーベルトと一緒にいるせいか、友達らしい友達がいない。他の生徒達から見れば、ロイエンタール家の嫡男は近づきにくい存在だ。貴族同士の関係は、家の派閥があるのでいろいろ難しい。単純に気が合う、合わないでは友人を選べなかった。

 そういうのが面倒で、アルバートは全部切り捨てる。ボクとルーベルトが居るからそれでいいと、割り切っていた。

 だが、友達がいなくて寂しかったのは実はアルバートも同様なのかもしれない。


 そんなことをつらつらと考えていると、視線を感じた。隣を見るとルーベルトも複雑な顔をしてアルバートを見ている。考えていることはボクと同じなのかもしれない。

 ボクたちは目を見合わせ、苦笑いしあった。






 ボクたちがどんなに心配しても、アルバートとランドールは親しくなっていった。ランドールは意外にも気さくだ。話し掛けられれば、普通に対応する。

 最初は遠巻きに見ていた他の生徒達も、数日経てば普通に声をかけるようになった。

 アルバートやルーベルトに対しての方がむしろ距離があるかもしれない。

 次期国王であるランドールとは、誰もが親しくなりたがった。クラスメート達は親しくなるように親から厳命を受けているらしい。

 貴族同士の関係は派閥があるので何気にややこしいが、王族は派閥に関係ない。親しくして悪い理由は何もなかった。

 気づいたら、ランドールはいつも人に囲まれている。そしてその隣にはアルバートがいた。


「ちょっと予想外」


 ルーベルトは独り言のように呟く。


「王子があんなに人当たりがいいなんてね」


 誰にでもにこやかに対応している王子を見て、感心する。


「にゃあ」


 ボクは一声鳴いた。同意する。

 王子様は我儘で身勝手な人種だと、わたしは勝手に思い込んでいた。しかし、違うらしい。

 貴族達とも上手に付き合わないと、王族とはやっていけないようだ。とても上手に対応している。


(友達100人出来そうな勢い)


 そう思った。

 ボクとルーベルトは2人から少し離れた所にいる。一緒にいると、入れ替わり立ち替わり来る人に対応しなければいけない。無駄に愛想を振るのも疲れるので、避難していた。ルーベルトはそれに付き合ってくれた形になっている。だが本当は、ルーベルトの方が居心地の悪い思いをしていたのをボクは知っていた。

 ルーベルトは庶子だ。王子やアルバートに近づいてくるような貴族にはいい扱いを受けない。彼らはアルバートの前で露骨にルーベルトを差別するようなことをするほど愚かではないが、そういう差別意識は態度や言葉の端々には出るものだ。ボクはそれがむかつくのでそこからルーベルトを連れて離れる。


(アルバートは疲れないのかな?)


 気になったが、さすがにアルバートまでは連れ出せなかった。

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