閑話: ブーム




 ネコネコカフェはなんだかんだいって成功だった。

 ネコの姿でノワールが頑張ったかいがあって、和やかな雰囲気を作り出す。一度口を開いてしまえば、なんだかんだと会話は続いた。

 黙っているより、意味が無くても会話を続けた方が互いに楽だ。

 当たり障り無い話題を探したせいか、ネコの話になることが多かったらしい。

 可愛い子猫に、みんなメロメロだった。


 だがもちろん、そんなことで長年の確執が無くなるわけではない。互いにいろいろと思うことはあるし、簡単には歩み寄れない溝があるのは事実だ。

 今までよりは少しだけ、場の空気がよくなったくらいの話だろう。しかしその少しの変化が大きかった。とりあえず、無駄にいがみ合うことは減ったらしい。

 やたら張り合うこともなくなって、それは側近達も内心、ほっとしていた。

 本音を言えば、どちらのサイドももう疲れていたようだ。

 王子サイドも王女サイドも、もめ事を起こさずに大人しくしている感じが見て取れる。


(とりあえず、成功なんじゃない?)


 ノワールは噂を聞いて、ほっとした。

 だが、変化はそれだけではない。

 突如、王宮にネコブームがわき起こった。


 魔法を使う貴族や王族にとって、ネコというのは愛玩動物ではない。使い魔として自分の魔力を助けるために存在するもので、言い方は悪いが道具と同じ扱いだ。使い魔の世話は道具を手入れするのと同じ感覚で、そこに感情は介在しない。

 ネコの方も、主に忠誠を誓うという感じはあまりなかった。餌をくれるから協力する。

 普段、使い魔である自分のネコに愛想良くされたり、甘えられたりしたことがない側近達は、甘えてくるノワールに衝撃を受けた。可愛い子猫にメロメロになる。使い魔としてでは無く、ペットとしてネコが欲しいと思ったようだ。

 ひとしきりサービスして人の形に戻った後、ノワールは使い魔ではないネコを入手するにはどうすればいいのかとあちこちから声を掛けられる。

 彼らは皆、ネコを飼う気満々だった。

 チャンスとばかりに、ノワールはネコを斡旋することにする。自分を二ヶ月育ててくれたブリーダーの家に恩返しが出来ると思った。


 しかし、迷いもある。

 ネコは生き物だ。おもちゃとは違う。飽きたからと、簡単に捨てられたりしたら困る。

 しかし自分が断わっても、彼らは諦めないだろう。貴族とはそういう生き物だ。断われば彼らは他に話を持っていくだけだろう。それなら自分が関わって、対策を取った方がいいとノワールは考えた。

 ノワールは誓約書を付けて子猫を斡旋することにする。最後まで面倒を見ることを約束させた。


(別に本人が最後まで面倒を見なくたっていい。王子や王女の側近なら、家柄の良い貴族だ。使用人だっているのだから、世話をしてくれる人は誰かしらはいるだろう)


 そう考える。

 ネコにしてみれば、餌をくれて世話をしてくれるならそれが貴族でも使用人でも関係ない。


(ボク的には同族が幸せになれればそれでいいしね)


 そう思ってがんがん斡旋した結果、王宮でネコブームが起こった。流行は上から下に流れるという話を習ったことを思い出す。

 上層部でネコブームが起きれば、それが下に広がっていくことは考えるまでもなかった。


(大丈夫かな?)


 その過熱ぶりに、ボクは少なからず不安になる。

 財政的に余裕がある貴族だけなら何の問題もないが、そうでもない人も手を出すのがブームだ。


(同族が不幸になるのは見たくないな)


 ボクは心配する。

 だがブームはもう、ボクにはどうしようもないところまで来ていた。

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