14-5 ネコネコカフェ





 当日、ボクは入り口で受付を担当した。ネコミミや首輪を参加者に渡して付けて貰うのが役目だ。

 最初のお客様はミリアナで、彼女にはネコミミだけを渡す。さすがに魔力制御の首輪をつけて貰うのは控えた。


「おやまあ、可愛い」


 ミリアナはにっこり笑顔でカチューシャを嵌める。


「似合うか?」


 少し不安そうに聞かれるので、元気ににゃあと答えた。それを聞いて、安心した顔をする。そのまま部屋に入っていった。

 次に来たのは王子様だ。不公平にならないよう、王女サイドと王子サイドは交互に入って貰う。こちらは何も指定していないが、こういうのは高位から下位へと順番が回るものらしい。当然、トップバッターは王女と王子ということになった。

 王子は多少訝しい顔をしたものの、本日のコンセプトを纏めた1枚の紙を手渡すと、ざっと読んで納得してくれた。ネコミミを付けて中に入る。


(案外、似合っているな)


 そう思いながら、見送った。


 その後は、位の高い順に側近達や護衛が入っていく。

 もちろん、ボクは全員にネコミミと首輪を渡した。たいていの場合、相手は戸惑う。自分たちも付けさせられるとは思わなかったようだ。ただの付き添いなので、関係ないと思ったらしい。

 だがそんな言い訳、ボクは受け入れるつもりはない。本日のお約束が書かれた紙を渡して読んで貰った。そこには入室の際は必ずネコミミと首輪を着用と書いてある。室内ではネコになりきり、語尾ににゃんをつけて話せとも書いてあった。


「にゃあ、にゃあ」


 ボクはにこやかな笑顔のまま、ネコミミと首輪を付けるように促す。さっと手にした札を上げた。その札には、”今、この場で付けてにゃん”と書いてある。喋れないことになっているボク用に作ってもらった札だ。


「にゃあ」


 もう一声鳴いて、にっこりと笑う。


 たいていの人はそこで折れた。すでに王子も王女もネコミミを付けて中にいる。側近や護衛が遅れをとるわけにはいかなかった。


「えっ……」


 しかし中には顔をひくつかせる人もいる。

 王子の側近も王女の側近もネコミミが似合うような女性や少年ばかりではない。護衛騎士の大半はごついおじさんだ。そのごついおじさんにも、ボクはネコミミと首輪を強要する。

 当然、おじさん達はどん引きだ。逡巡して、ちらちらとボクを見る。

 ボクは満面の笑顔と、純真な瞳をキラキラとさせた。


「にゃあ」


 文字通りの猫撫で声に立ち向かえる人は多くない。


「……」


 渋々という顔で、つけてくれた。

 ボクはそんなおじさん達ににこにこと愛想を振りまく。そんなボクに、ほとんどの人はメロメロだ。下僕化が止まらない。

 入り口でネコミミと首輪をつけた人たちは部屋の中に入っていった。だが、彼らの試練はここで終わりではない。本当の試練はこの後だ。普段、仲の良くない相手と強制的にペアにされるという罰ゲームじみたものが待っている。

 ちなみにその役目はロイドとカールに任せてあった。


(適材適所よね)


 そう思い、丸投げする。カールには顔見知りも多いようだ。なにやら言い合うような声が聞こえてくる気もするが、気のせいだとスルーする。


(ボクの仕事は受付だからね!!)


 自分の仕事に集中した。






 全員が入室したのを確認した後、ボクも部屋に入った。勝手に出入り出来ないよう、施錠する。

 部屋の中はファンシーな空間になっていた。飾り付けに気合いが入っている。壁に肉球の足跡がついていた。スタンプに見えたので、後で落ちるか心配する。王宮の壁をネコの足跡だらけにするのはさすがに不味いと思った。だが、この装飾は全部魔法らしい。わたしが描いた絵をイメージして、装飾を魔法で行ったそうだ。


(ある意味、反則)


 そう思ったが、とても可愛く出来上がっていたので文句はない。


 客達は一様に戸惑った顔をしていた。コンセプトカフェなんてこちらの世界にはない。テーマを決めて装飾されている室内に困惑していた。だが、眉間に皺が寄っている理由はそれだけではないだろう。みんな、普段は仲が悪い相手と手錠で繋がれていた。


「一体、これはどういうことなのですか?」


 側近の1人が不満を口にする。


「にゃあ」


 ボクは注意した。その人を指さす。


「え? 何?」


 彼は戸惑った顔をした。注意された理由がわかっていない。


「にゃあ」


 ボクは手にした札を上げた。そこには語尾には「にゃん」を付けることと書いてある。ボクは札を何種類か用意していた。


「にゃあにゃあ」


 言い直せと、迫る。

 王女や王子も彼を見た。ちなみに彼は王子サイドの人間だ。


「……一体、これはどういうことですか……にゃん」


 とても気まずそうにそう呟いた。顔を真っ赤にする。


 ふっと笑ったのは王女だけではなかった。王子も笑いを堪えている。どんな文句も、語尾ににゃんとつけるだけで物腰が柔らかくなる。


(偉大だな、にゃんの魔法)


 ボクはそんなことを考えた。


「にゃあ、にゃあ」


 鳴きながら、彼の手にしている紙の真ん中当たりを指さす。そこを読めと指し示した。

 意味が通じたようで、彼はその部分を読み始める。

 そこには本日のテーマが、”みんなで仲良く”と書いてあった。


「は? 仲良くって……」


 彼はちらりと手錠で繋がれた相手を見る。何も言わず、苦く笑った。

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