14-4 プレゼン 2。
ミリアナの部屋を出た後、王子の側近が待つ部屋に向かった。近くなので、抱っこではなく手を繋いで歩く。とてとてとボクの歩くスピードに付き合ってロイドはゆっくり歩いてくれる。
はっきりいって、効率は悪い。
「なんか、新鮮」
ぼそっと、ロイドはそんなこを言った。何に対してかよくわからないが、萌えている。
少なからず、引いた。
普段のボクの移動は抱っこが基本だ。それは別にボクが望んだことではない。
ボクの歩くスピートに合わせるより、抱っこして連れていく方が簡単で早いというだけの理由だ。なので、近距離なら歩く。
「にゃあ」
ボクは一声、鳴いた。くいくいと繋いだ手を引く。
「何?」
ロイドはボクを見た。
ボクは立ち止まり、斜め掛けしている大き目のバックから次の資料を取り出す。それは一枚のぺラッとした紙だ。
プレゼン資料は2種類ある。一つはミリアナ用で、ちゃんとしている。もう一つは王子の側近への説明用だ。こちらは詳しい説明を省いてある。ネコネコカフェがどんな内容なのか、伝わればそれで良かった。
王子の側近は事務的な理由でいるだけだ。基本的に裁量権はない。
詳しい説明は相手を困惑させるだけだと思った。
ボクはそのぺらっとした一枚の紙をロイドに手渡す。次の打ち合わせは、ボクではなくロイドが行うことになっていた。筆談が面倒なのもあるが、それ以上に、向こうはどの程度ボクが物事を理解しているのかわかっていない。
学校で授業を受けているのだから、それなりに理解していると考えるのが普通だが、どうもそんな感じではない。ある意味、見た目どおりの子供として対応された。だから、ロイドに任せる。
「これを見せればいいの?」
ロイドは聞いた。
「にゃあ」
ボクは頷く。
「わかった」
そう言うと、再び手を繋いだ。歩きながら、渡した資料に目を通す。
「ふーん」
意味深な声を出した。
「モノは言い様だね」
そう言って、笑う。一応、誉められているようだ。
王子の側近は青年と言うよりまだ少年と言っていい若さだ。その彼と、テーブルを挟んで向き合う。
お茶会にコンセプトがあることをロイドは説明した。
「はあ」
相手は首を傾げる。微妙な反応だ。
だが、それが普通だろう。通常、こちらのお茶会にこういう企画モノはない。こういうのをすんなり受け入れられるのは、ボクやアルバートみたいなあちらの記憶を持つものだけだと思う。
ロイドはみんなが楽しめるようイベントを企画したのだと、それっぽい言いまわして説明した。
(意外と説明が上手)
ボクは感心する。
側近の彼もロイドの口八丁手八丁になんだか流されていた。
アルバートと同じ年頃の王子はその側近も若い。王子よりは2つ3つ年上のようだがまだまだだ。ロイドの方が上手らしい。
(そう言えば、王子も側近も学園に通っていないけど、何故なんだろう?)
2人のやり取りを無関係ですって顔で眺めながら、そんなことを考えた。
この国に義務教育はない。貴族でさえ、学園に通うのは半数以下だ。必ずしも学校に通う必要はない。
だが、学園に通えばある程度の人間関係が構築できた。それは繋がり大切にする貴族にとっては大きな財産になる。それは王族も例外ではないだろう。
(学園に通った方がメリットがあるのでは?)
余計なお世話だが、そう思った。
同じ年の友達がいないからと、最近、アルバートやルーベルトには王子からよく声がかかる。わたしを王宮まで連れてきた2人はそのまま別室で待機しているので、声をかけやすいようだ。
王子は友達が欲しいようにボクには見える。
(常に一緒にいる側近は友達ではないものね)
そう考えると、王子の環境はちょっと気の毒だ。
わたしは友達を無理に作る必要は全くないと思っている。友達はいた方がいいのだろうが、いないから不幸だとは限らなかった。そもそも自称友達が、本当に友達がどうかは怪しいことも多い。友達という名目で利用されるくらいなら、そんな相手は必要ないと思った。それに、学生時代でなくても友達を作るチャンスはある。人生は、学生時代よりその後の方がずっと長いのだ。だから必ずしも学園に通う必要があるとは言わない。しかし友達が欲しいなら、通うのも一つの手だと思った。
王宮に居ては、人と知り合う機会はかなり制限されるだろう。
そんなことをぼんやりと考えていたら、いつの間にか話し合いは終わったようだ。
「ではそういうことで、当日、よろしくお願いします」
ロイドはにこやかにそう言った。
「ノワール」
ボクを見る。
「にゃあ」
ボクは一声鳴いた。それは返事に聞こえただろう。ロイドはふっと笑うと、ボクの頭を撫でる。
「終わったから、帰ろうか?」
そう言った。
「にゃあ」
ボクは返事する。長居する理由は何も無かった。しかし、そんなボクに側近の彼は何か言いたげな目を向ける。
(なんだろう?)
心当たりは何もなかった。
「にゃあ?」
ボクは首を傾げる。じっと彼を見つめ返した。
「あの……」
とても言い難そうに、彼は口を開く。
「私も触っていいですか?」
ごくりと唾を飲み込んで、覚悟を決めたような顔でそんなことを言う。
(何のために覚悟が必要なのだろう?)
不思議に思った。
「にゃあ」
いいよと頷く。
彼はとても嬉しそうな顔をした。
「じゃあ、少しだけ」
そう言うと、手を伸ばす。とても遠慮がちにボクの頭を撫でてた。その手がネコミミにも触れる。
優しいその手の動きは、案外、気持ちが良かった。
ゴロゴロとボクは喉を鳴らす。
彼は満足そうにボクを見ていた。
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