14-2 企画モノ




 会場変更に伴い、日程も変更になった。

 ただ場所を借りるだけだが、打ち合わせの必要が無い訳がない。王宮の一室を借りて行うからには入念な事前準備が必要になった。

 正直、かなり面倒くさい。

 ボクはロイドに連れられて、王宮に何度も足を運んだ。

 当たり前の話だが、王宮には転移陣なんて張らせてもらえない。いちいち馬車で向かった。これが地味に時間を取られる。

 その日もボクとロイドは馬車に乗って王宮に向かっていた。

 本日のボクは黄色をベースにした服を着ている。上着と七分丈のパンツにはリボンやフリルがたくさんついていた。髪もリボンを編み込んで纏めてある。そこいらの女の子より可愛いと自負していた。


「ノワールは今日も可愛いね」


 向かい側に座ったロイドはボクの顔をうっとりと眺めている。


「にゃっ」


 座席に座って足をぶらぶらさせていたボクはその言葉にちょっと引いた。


「にゃー……」


 嫌な顔をしたら、ロイドは苦く笑う。


「こんな面倒なことに付き合っているのだから、可愛い顔を思う存分堪能するくらいの特典があってもいいと思うよ」


 そんなことを言った。 


「にゃあ」


 そう言われると、ボクも何も言い返せない。面倒なことに巻き込んだ自覚はあった。だが、面倒だと思っているのはボクも同じだ。


 面倒なのはもちろん、移動だけでは無い。場所と日程の変更を王女側にお知らせしたら、当然、理由を尋ねられた。もっとも説明しなくても、場所が王城の中だとなった時点でいろいろと勘ぐられただろう。

 誤解されると面倒なので、王子側からの要請で会場を変更することを正直に話した。すると、ミリアナ側からもいろいろと要望が出てくる。


(まあ、そうなるよね)


 予想はしていたので、驚いたりはしなかった。

 王子側がいろいろ要望を出すならこちらもという無意味な対抗意識があるのだろう。

 だがその要望を叶えると、参加者はどんどん増えていくことになる。こじんまりとしたお茶会のはずが、側近だの護衛だので大人数になりそうだ。それだと、正直、意味がない。余計な人がいない状態で、腹を割って話せる場所を作りたかったが、そう上手くはいかないようだ。


(何かいい企画は無いかな)


 そう思って、ちょっと考える。いっそのこと、みんな纏めて仲良し作戦とかやってみようかなと思った。どうせなら、側近や護衛にも仲良くなって欲しい。手錠で繋がれ、仲良くならないと外れないとか出来たら面白いと思った。でもそれを王子や王女に実行したら確実に不敬罪に問われるだろう。


「にゃあ……」


 ボクはため息をついた。


「何を考えているの?」


 妙に勘のいいロイドは危険を察知したらしい。真っ直ぐボクの目を見て聞いてきた。


 ちなみにこの打ち合わせに、アルバートは同行していない。一緒に行くと最後までごねられたが、丁重にお断りした。何かあった時、できるだけアルバート達は巻き込みたくない。そのためには、打ち合わせの席にいない方が好都合だ。打ち合わせにはロイドだけを伴う。

 ロイドにもそれは説明した。自分は巻き込んで良いのかと切ない顔をされる。

 だがロイドなら、万が一の時にでも自分の身は自分でどうにでも出来るだろう。そういう意味では心配していなかった。

 正直にそう話すと、そういうことならと納得してくれる。


「どうやったらみんな仲良くなれるか考えているにゃ」


 ボクは可愛らしさを演出しつつ、答えた。無邪気で無害なネコですよアピールをしてみる。だが、アピールはロイドにはスルーされた。


「良い案が浮かんだ?」


 話しを進める。浮かんでいたらため息なんて吐かないだろう。それがわかっていて聞くのは、ちょっと意地が悪いなと思った。


「ボク的にいい案はあるけど、実行したら不敬罪とかに問われそうだにゃん」


 ボクは正直に話す。語尾ににゃんを付けた。


「……何、する気?」


 凄く不安そうに問われる。すっと何かを差し出された。


「?」


 ボクはそれを不思議そうに見る。


「握って」


 言われて、端を持った。


(盗聴防止用の、心の声で会話できるアイテムだよ)


 ロイドの声が耳ではない場所から伝わってきた。


(え? この馬車盗聴されているの?)


 ボクはどぎまぎする。


(いや、念のため)


 ロイドは苦く笑った。だが、そういう用心は大事だろう。

 ボクはとりあえず、思いついたことをいくつか話した。その中には、部屋に入ったらネコになりきり、語尾には必ずにゃんをつけることとかも含まれている。完全にノリは学祭の喫茶店だ。

 そんなボクにロイドは呆れる。


(……)


 心の声でも黙り込んだのは伝わってくる。


(ダメ?)


 ボクは問う。


(手錠はダメですね。確実に捕まりますよ)


 脅された。


(やっぱり)


 ボクは頷く。だがそれは最初からわかっていた。


(でも、王子と王女以外ならいいよね?)


 ロイドに聞く。

 参加者は王子達だけでは無い。側近達を強制的に仲良くさせるのにはいい案だと思った。自主的に仲良くなることがないなら、強制的にやればいい。


(側近達とかなら問題無いですよ。護衛騎士は微妙ですが)


 ロイドは答えてくれた。護衛騎士は仕事に支障が出たらアウトということだろう。


(じゃあ、護衛騎士は止めよう。何かあったら不味いから)


 ボクは勝手に決める。

 そんなボクにロイドはなんとも微妙な顔をした。


(その手錠、誰が作るの?)


 問われる。


(もちろん、ロイド先生)


 ボクはにっこりと微笑んだ。

 ロイドはとても冷めた目でボクを見る。


(ボクは今、制限受けているから無理だもん)


 自分の首輪に触った。しれっと言い訳する。

 

(……)


 ロイドはまた黙り込んだ。

 ネコミミカチューシャも手錠もまる投げで、ちょっと申しわけない。


「にゃあにゃあ」


 ボクは魔法具を離して、鳴いた。座席から降りて、ロイドの膝にじゃれる。甘えた。上目遣いに、ロイドを見上げる。


「可愛ければ、全て許されると思っていませんか?」


 ロイドはため息を吐く。


「にゃあ」


 思っているよと、ボクは鳴いた。

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