14-1 変更。
王子と王女を会わせるために、お茶会を開くと決めた。だが、その場所についてボクは悩む。王都にロイエンタール家の屋敷は無い。転移してロイエンタール家に移動することも考えたが、相手は王子と王女だ。確実に問題になるだろう。
(面倒くさい)
そう思ったが、ここで諦めることは出来ない。権力争いに巻き込まれるなんて、ごめんだ。
国のためでも、王子と王女のためでもなく、ボクはボクとボクの愛する人たちのために頑張る。
王都の中で、それも王宮からさほど遠くない範囲で会場を探す必要があった。
そうなると、学園が一番都合がいい。
ボクはロイドに相談することにした。
協力すると決めたからか、ロイドは手を貸してくれる。校舎の一室を使わせてくれることになった。
使用許可はロイドからもらえばいいので、容易い。
準備は順調に進んだ。しかし、招待状を作る段階で問題が発生する。誰の名前で出すか悩んだ。
普通に考えれば、アルバートの名前で出すべきだろう。ボクの主はアルバートだ。
だがそれだと何かあった場合、ロイエンタール家を巻き込むことになる。それはボクの望むことではなかった。
何も起きないなら問題無いが、何も起きないとは思っていない。慎重になる必要があった。
そして、自分の名前で招待することを思いつく。
自分の名前で招待状を送れないかロイドに相談した。
「え?」
ロイドは素で驚く。
「ネコがお茶会を開くの?」
確認された。そこにはちょっとバカにしたニュアンスを感じる。ロイドにはそういうつもりは無いかもしれないが、ボクはそう感じてしまった。
「悪い?」
ボクはむーっと口を尖らす。
「ネコミミを用意して、参加者もネコなればいいじゃん。ネコによるネコのためのお茶会だよ」
咄嗟に、思いつきを口にした。ノリは学祭のコスプレ喫茶だ。みんなでネコミミつけてネコになるのも悪くない。
「あ、それ。面白いね」
急にロイドは乗り気になった。
みんながネコミミをつけた姿を想像したらしい。
「カールとか、似合いそう」
にやにや笑う。
(うわぁ。悪い顔している)
そう思ったが、口には出さなかった。協力者は大事にする方針だ。
「それで行こう」
具体的にどういうネコミミを作りたいのか聞かれたので、カチューシャに布で作ったネコミミを付けることを説明する。図解した。ネコミミの中には綿を入れて、もこっとさせたいと頼む。
「魔法でも作れそうだけど、今のボクには無理」
ボクは指で首輪に触れた。圧迫感がないからつけていることを忘れそうだが、ボクの魔力は首輪で制限を受けている。
「わかった。ネコミミはこちらで用意する」
ロイドは引き受けてくれた。
ボクは自分の名前で招待状を作成する。
出来上がった招待状を見て、ルーベルトは呆れていた。だが、ロイエンタール家を巻き込みたくないというボクの考えには賛成してくれる。
ボクがアルバートの所有物であるかぎり、無関係にはならない言いながら、それでも招待状に名前があるかないかの違いは大きいとも言った。
こうして、出来上がった招待状は2通。王子と王女に送った。
正直、招待を受けてくれるかどうかはかなり分の悪い賭だと思う。王子はもちろん、王女も難しいと思った。ネコによるネコのためのお茶会で、ネコミミを用意しますなんて意味がわからないだろう。王子の招待状には、カールの手作りお菓子を用意することを書き添えたが、そんなので釣られてくれるかはわからない。
だが、王女はわりとあっさり乗ってきた。参加するという返事が直ぐに届く。
(警戒心、薄くない?)
大丈夫なのだろうかと、少し心配になった。招いておいてなんだが、もう少し疑って欲しい。慎重さはきっと彼女の身を助けるだろう。
(ボクもあの時、ドアを開けるのをもっと警戒していれば……)
刺されて死ぬことなんてなかったのになと、今さら前世のことを思った。ドアを開ける前に、相手を確かめていたらドアは開けなかった。開けたとしても、警戒していたらナイフは避けられただろう。
相手はプロの殺し屋とかでは無い。人を刺したことなんてなかった、ただの主婦だ。あの時、もっと上手く行動できていたらと考えない訳ではない。
警戒心が薄すぎるとロイドに愚痴ったら、普通は信頼されていることを喜ぶところだと笑われた。
それもまあそうかと、ボクは納得する。
王女の返事から遅れること、3日。王子からの返事が来た。その返事はボクを大いに困惑させる。
ボクはみんなに集まって貰った。
放課後、ロイドの教官室にみんな集まる。
ソファに座って向かい合った。カールとロイドが並び、その向かい側にボクを真ん中にアルバートとルーベルトが座る。
ボクは招待状の返事をみんなに見せた。返事の手紙をみんなで回し読む。
「この、会場変更の要請って……」
ルーベルトは困惑しながら、口を開いた。みんなを見回す。普通のことなのか、尋ねたいという顔をした。
「学校内だと警備が大変だから、王宮の一室を提供するのでお茶会はそこでして欲しい--か。ある意味、妥当な要請だね」
ロイドが呟く。カールを見た。
「ああ。私も護衛騎士だったら、同じことを頼む」
カールは頷く。
「でも、王宮の中の部屋を場所として提供するって……。普通じゃないですよね?」
アルバートは困惑した。
「そもそも、ネコがお茶会を開いて、王子と王女を招待するのが普通じゃないよ」
ロイドは笑う。
「それは……、そうですが」
アルバートは困惑していた。
「この要請、素直に従って、大丈夫ですか?」
ロイドに聞く。
「むしろ、無視する方が問題になるだろう」
ロイドは苦く笑った。
(ですよねー)
心の中でボクは呟く。
「カール先生は問題にゃいの?」
カールに問うた。お菓子を作るのが大変になるのではないだろうかと心配する。
「特にはないな」
カールは考えて、答えた。不便は特にないらしい。
「それなら……」
アルバートはボクを見た。
「……なんか、大事になっているにゃ」
ボクは呟く。困った。
「そもそも、大事なんだよ」
ロイドが笑う。
仲の悪い王子と王女を集めるのだから、当然、大事だ。
「にゃー」
まあ、そうだなとボクも納得する。
王子に了承の返事を出すことにした。ついでに、王女にも場所の変更をお知らせする。
(これって、王女からも何か言われるパターンなんじゃ……)
そう思ったが、フラグになりそうだから口にはしなかった。
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