閑話: しっぽ。




 ノワールはアルバートの膝の上で、ぐてんと身体を伸ばしていた。

 その伸びきった身体に、アルバートはブラッシングする。


「にゃーう」


 気持ち良さそうに、ノワールは鳴いた。

 ネコってこんなに伸びるのか?と目を疑うほど、その身体は伸びきっている。


「ゴロゴロゴロ……」


 喉を鳴らしていた。

 そんなノワールにアルバートは満足な顔をしている。

 そんな2人の様子を、アルバートの隣に座ったルーベルトは見ていた。


 パタン、パタン。


 シッポが左右に揺れている。それは時折、ルーベルトの足にもぶつかった。

 子猫のノワールのシッポはよく動く。ブラッシングが気持ちいいからか、上機嫌に動いていた。


(すっごい気になる)


 ルーベルトはじっとシッポを見つめる。とても触りたくなった。そっと手を伸ばす。シッポを掴もうとした。

 だがまるで見えているように、シッポはルーベルトの手を避けて逃げる。


(えっ?)


 気づかれたのかと思ってノワールを見た。しかし、ノワールの頭は向こうを向いている。全くこちらを見ていなかった。気づいている気配はない。


(たまたまか)


 そう思って、再びルーベルトはチャレンジした。

 だがやはりシッポは掴めない。

 その様子は、ノワールには見えていなくてもアルバートには見えている。


「……何、しているの?」


 ルーベルトに問うた。苦く笑う。


「……掴みたい」


 ルーベルトは正直に打ち明けた。


「動くのが気になって、気になって……」


 自分でもおかしいと思いながら、手を伸ばさずにはいられなかった。


「気持ちはわかるけど、無理だと思うよ」


 アルバートは首を横に振る。


「なんで?」


 ルーへルトは問いかけた。


「以前、同じことをしようとしたけど、掴めなかった」


 アルバートもチャレンジしたことがあることを打ち明ける。ぱたぱた動くシッポにはあらがえない威力があった。


「実は、後ろにも目がついているとか?」


 ルーベルトは冗談交じり聞く。

 アルバートは思わず、想像してしまった。


「想像すると怖いから、止めよう」


 ぶるっと身体を震わす。

 頭の後ろにも目があるノワールは予想以上に気味が悪かった。


「じゃあ、物体を感じ取る機能が実はついているとか?」


 ルーベルトは問う。


「そういうのは前足についているんだろ?」


 アルバートは違うと首を横に振った。ネコが狭い場所を平気で歩けるのは、髭のような感覚器官が前足についているからだと知っている。


「へえ。詳しいんだね」


 ルーベルトは感心した。そんな話、ルーベルトは初耳だ。

 アルバートはそれが前世の知識であることを思い出す。飼っていたわけではないが、ブームだったのでネコの事はテレビでいろいろ特集していた。その時に見た知識が頭の中に残っていたらしい。


「ネコを飼っていたら、わかるよ」


 アルバートは少し苦しいと思いながら、誤魔化した。前世でテレビで見たなんて、本当のことが言える訳もない。


「ふーん」


 ルーベルトは納得したような、していないような微妙な顔をした。だがそれ以上、詳しくは聞かない。


「ノワール。シッポに触っていいかい?」


 その代わりに、本猫に許可を求めた。


「にゃ?」


 ノワールが振り返る。


「シッポに、触りたい」


 ルーベルトは繰り返した。


「にゃあ」


 いいよとノワールは返事する。差し出すように、シッポは動いた。

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