13-8 返事。




 ロイドから呼び出されたのは三日後だった。


(意外と早かったな)


 ボクはそう思ったが、アルバートやルーベルトはそう思わなかったらしい。この三日、かなりドキドキしていたようだ。ロイドから呼び出されて、ほっとした顔をしている。

 いいにしろ悪いにしろ、返事をもらえることに安堵したようだ。


(別に悪巧みの相談とかしているわけじゃ無いのに)


 そんなにドキドキするようなことかな?と思うが、王族関連は神経を使うらしい。ネコのボクにはわからない気苦労があるようだ。


 いつものように放課後、アルバートはボクを連れて教官室に向かう。ルーベルトももちろん一緒だ。呼び出されることが多いので、ロイドの教官室の扉にはボクたちの魔力登録がしてある。

 ロイドがロックしない限り、触れれば自動ドアが開くようになっていた。


(ある意味、ハイテク)


 触れるだけでしゅっと横に開いたドアを見ながら、そんなことを考えた。

 部屋に入ると、いい匂いがする。

 ボクはくんくんと匂いの元を探した。テーブルの上にお菓子が用意してある。焼きたてのスコーンだ。


「にゃあ」


 美味しそうな匂いに、もう一度、鼻をくんくん鳴らす。焼きたてのスコーンからはまだ湯気が立っていた。


(誰が焼いているんだろう?)


 ふと、疑問に思う。作りたてということは、作った人がいるはずだ。


(まさか、カノン?)


 有能な人形はお菓子まで作れるのかと驚いた。


(いやいや、まさかね)


 さすがにそれはないだろうと、自分の想像を打ち消す。

 問おうかと口を開くと、ロイドにソファを勧められた。切り出すタイミングを見失う。


(まあ、いいか)


 重要なことでもないので、そのまま流した。

 アルバートはボクをソファの真ん中に座らせた。右手にアルバートが、左手にルーベルトが座る。

 ロイドと向かい合った。

 カノンが絶妙なタイミングでお茶を出す。


(なんて有能)


 やはり自分でも作ってみたいなと思った。

 前世のボクはロボットとかにとても興味があった。でも、自分には無理だとチャレンジすることさえなく諦めてしまう。今さらだが、勿体ないことをしたと思った。無理だろうとなんただろうと、やるだけやってみれば良かった。何にでもチャレンジできる恵まれた国に生まれたのに、その環境を活かせなかったことを後悔する。


(生まれ変わって知る、日本の凄さ)


 コンビニがあって24時間買い物できて、何でも揃って。食べ物は店に行けばいつでも手に入る。それがどれほど恵まれていたのか、今ならわかる。

 まるで魔法の国だ。

 魔法なんて、存在しない世界だったのに。


 そんなことを考えながら、スコーンに手を伸ばした。

 ロイドが話を切り出さないので、普通にお茶を飲んでお菓子を食べる。はむっと噛みつくと、焼きたてのスコーンはとても美味しかった。


(うまっ)


 心の中で歓声を上げる。お菓子はいろいろ貰うが、その中でも上位だ。何より、焼きたてなのがいい。


 はむはむ。


 思わず夢中になって食べていたら、じっとロイドに見つめられた。


「にゃ?」


 何?--と、問う。


「そうやっているただの可愛いだけのネコなのにな」


 ロイドはため息を吐いた。それはそれは渋い顔をする。


「その小さな頭でなんであんないろいろなことを考えられるんだろうね」


 不思議がられた。


「にゃあ」


 そんなの知らないとボクは答える。ネコミミがぴくぴくと動いた。

 アルバートがよしよしとボクの頭を撫でる。

 それを見ながら、ロイドはまたため息を吐いた。 


「どのみち巻き込まれるなら、抜き差しならない状態で巻き込まれるより、最初から巻き込まれる方がいろいろと手を打てる分、マシなのではないかと判断しました」


 ロイドは正直過ぎるほど正直に、自分の意見を口にする。


「にゃー」


 それはそうだとボクは同意した。なんだかんだいって、ロイドやカールは協力することになると思う。2人は案外いい先生で、生徒であるボク達を放ってはおけないだろう。


 そして、ちょっと感動した。


(学園ドラマの世界みたい)


 そう思って、にまにまする。ロイドと目が合った。


「にゃあ」


 ボクは一声鳴いて、ソファから降りる。とことことロイドに近づいた。みんなが何をするつもりだろうと、ボクを見ている。

 抱っこしていいぞと、ボクは手を広げた。


「にゃあにゃあ」


 強請るように鳴く。


「サービスしてくれるの?」


 ロイドは笑った。ボクを抱き上げ、自分の膝に座らせる。


「にゃあにゃあ」


 ボクは頭をスリスリとロイドに擦りつけた。わかりやすく媚びを売る。


「可愛ければ全て許されると思っているだろう?」


 ロイドは呆れた。


「にゃあ」


 元気にボクは返事をする。

 実際、そう思っていた。カワイイは正義だ。


「まあ、許すけどね」


 言いながら、ロイドはボクの頭を撫でる。

 ゴロゴロとボクは喉を鳴らした。

 そこにガチャリとドアが開く音が響いた。


(ガチャリ?)


 不思議に思ってそちらを見ると、隣の部屋との仕切りの壁にドアがあった。


(え? そんなところにドアがあったっけ?)


 ボクは驚く。アルバートとルーベルトも驚いていた。

 だが、2人が驚いている理由はボクとは違う。

 ドアを開けたのは、焼きたてのスコーンを持ったカールだった。

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