13-7 相談。<ロイド視点>
ロイドは極力、王家には関わりたくないと思っていた。
ミリアナからの好意は感じていたが、ロイドにその気は無い。王女を娶って王家のややこしいことに巻き込まれるのはごめんだったので、意識的に距離を取っていた。
それなのに、ノワールが王女と仲良くなる。
正直、意外だった。ノワールはああ見えて、面倒事は最初から避けるタイプだ。進んで人助けをするほどお節介ではなく、意外とドライなところがある。
自分のことは自分で、自己責任としてやって欲しいと思っていると感じていた。だから王家なんて面倒くささの極致に関わることは望まないと思っていた。
だが、何故かノワールは王女に同情的だ。助けてあげたくなったらしい。週末は何かと理由を付けて呼び出され、王女のイメージアップ作戦に一役買っていた。
実際、ネコの獣人を可愛がる王女の様子はいろんなところで波紋を呼んでいる。優しくなったと評判だ。ノワールの作戦は着実に効果を上げている。
だが、困ったこともあった。なんだかんだとロイドも巻き込まれる。出来れば関わりたくないので断わろうとするが、二回に一回は先手を打たれて断れずにいた。今まで距離を置いていたのが無駄になった感じで、複雑な気分になる。
唯一の救いは、ノワール自身はロイドを巻き込もうとしていないことだった。しかしここに来て、面倒なことを言い出す。
王女と王子を仲良くさせたいなんて、厄介なことを口にした。
「この展開は予想外」
カールに状況を説明していたロイドは独り言のように呟く。
学園には、学生とは別に教職員の寮があった。2人一部屋の生徒とは違い、全て個室だ。全員が寮で生活しているわけでは無いが、希望すれば入れる。ロイドとカールは寮で生活していた。
夕食後、ロイドは隣のカールの部屋を訪れる。放課後、ノワールからされた件をカールと相談するためだ。
一通りノワールの提案を話した後、ロイドはカールに紙の束を渡す。
「何だ、これ?」
渡された物をカールは不思議そうに見る。絵が描いてあり、その横に文字が入っていた。
「王女と王子が仲良くした方がいい理由をわかりやすく物語にした絵本だそうだ」
ロイドは説明する。
カールは露骨に眉をしかめた。
「わざわざ作ったのか?」
ちょっと引く。ノワールの本気度が重かった。
「何故こんなものを?」
首を傾げる。そんなことまでする意味がわからなかった。
「いちいち説明するのが面倒らしい」
ロイドは苦く笑う。
絵本風に紙に描いておけば、読ませるだけでいい。合理的と言えば合理的だが、絵や文章を考える手間暇を考えれば、本当に合理的かは微妙なところだろう。
「何故、物語風なんだ?」
昔々から始まるそれを少しだけ読んで、カールは訝しむ。
「誰かに見られても、絵本だって言い張ることが出来るからだそうだ」
ロイドは答えた。
形として残すことに、ノワールも一応、危機感は持っているらしい。
(それなら作らなきゃいいんじゃ……)
そう思ったが、文句を言う前に読んでみることにした。
その物語は、仲の悪い姉弟の話だ。2人の仲が悪いのをいいことに、家臣達が2人を煽って後継者争いを目論む。邪魔者を全て消し、自分が傀儡として姉や弟を操ろうと悪い家臣は目論んでいた。2人を嵌めたり、利用するために、周囲の人間を罪に陥れたり殺したりする。全く救いのない、可愛らしさゼロの話だった。
「……」
読みながら、カールは顔をしかめる。
妙なリアルティがあった。
「なんていうか、可愛らしい絵に似合わないダークな話だな」
ため息をつく。
そうだろうとロイドは頷いた。
「だが、ありえない訳でもないのが、痛いところだ」
ため息をつく。
「こういう危険を回避するため、王子と王女には仲良くして欲しいというのがノワールの主張だ。自分たちは確実に、巻き込まれる側に入っているからと」
心配しているのは、王子や王女の身より自分たちの身であることを話す。
「ははっ」
カールは小さく笑った。
「ノワールらしいな」
そんなことを言う。
だが、我が身を大事にすることは生き残りに必要な生物の基本だ。
「……」
カールは紙の束をまじまじと見る。
「妙に説得力があるな」
なんとも微妙な顔をした。
「ああ」
ロイドは同意する。
「これを読むと、自分には関係ないと断わりにくい」
首を横に振った。
「さて、どうする?」
カールに問う。
「そうだな……」
呟いたカールは真っ直ぐにロイドを見た。
「正直、王家の問題は王家がなんとかすればいいと思っていた。でも、ロイドが巻き込まれる可能性は確かに否定できない。だとすれば、その危険は排除したい」
答える。
ロイドはなんとも複雑な顔をした。
カールの気持ちはありがたいが、重い。
「私のために何かをする必要なんて、これ以上は必要ない。十分すぎるほど、助けてもらった」
ロイドは苦い物を噛み潰した顔をした。実際、そんな気分だ。自分がカールの人生を狂わせてしまったことをロイドは自覚している。これ以上、自分のために頑張らなくていい。
「私は好きでやっているんだ。ロイドが気にすることはない」
カールは首を横に振った。
「それにどっちみち、ノワールたちを放ってはおけないだろう?」
苦く笑う。
「それはまあ、そうなんだけどな」
ロイドはなんとも複雑な顔をした。
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