13-6 説得。




 放課後、ロイドの教官室を訪ねた。課外活動はない日なので、本人しかいない。

 ロイドは歓迎してくれた。お茶とお菓子を用意してくれる。


「にゃあ、にゃあ」


 ボクは鳴いた。


「え? 何?」


 ロイドは問う。

 ボクは手を広げて、抱っこを求めた。


「抱っこしていいの?」


 ロイドは戸惑う顔をする。


「にゃあ」


 ボクは返事をした。


(サービス、サービス)


 心の中で繰り返す。それが聞こえたわけでもないだろうに、手をのばしかけていたロイドはハッとした。手を止める。


「……」


 疑うようにボクを見た。


「何を企んでいる?」


 問いかける。


「にゃ?」


 ボクは恍けた。可愛らしく、小首を傾げる。だが、そんなことでロイドは騙されてはくれない。


「可愛いけど、可愛いから油断できない」


 そんなことを言った。いい勘をしている。


「にゃあにゃあ」


 まず抱っこしろと、ボクは主張した。話はそれからだ。


「はいはい」


 ロイドは返事をする。ボクを抱っこした。ソファに座り、膝にボクを座らせる。


「これでいい?」


 問いかけた。


「にゃあ」


 ボクは頷く。すりっとロイドにすり寄った。ロイドの耳を引っ張る。


「ん?」


 ロイドは意図に気づいて、耳を寄せてきた。ボクはそこに口を寄せる。王女と王子の件を話した。

 こそこそと内緒話する。

 大っぴらに話すようなことではなかった。


「!?」


 ロイドは露骨に嫌な顔をする。


(だよねー)


 心の中でボクは賛同した。気持ちはよくわかる。ボクだって、そんな面倒な事に関わりたくない。だが、何もしないで巻き込まれるのはもっと嫌だ。だから頑張る。

 そしてそのためにはどう考えてもロイドとカールの協力は必要だ。ロイドがOKしてくれたら、カールは巻き込めると思う。カールはロイドに甘い。だからまず、ロイドを説得することにする。


「手伝って」


 可愛らしく頼んだ。にっこりと笑う。すりすりっと、甘えて頭を擦りつけた。

 ロイドは一瞬、はうっと息を飲む。だが簡単に絆されてはくれなかった。


「無理」


 即答される。いい笑顔で断わられた。


(いくら下僕でも簡単にはいかないか)


 内心はそう思ったが、大げさに驚いておく。


「にゃにゃっ!?」


 ショック!!という顔をした。目をうるうるさせ、ネコミミをしょぼんとさせる。ロイドではなく、アルバートに心配な顔をされた。


「いやいや。当然、断わられると思っていたでしょ? わかっていたでしょ?」


 ロイドに突っ込まれる。シッョクを受けたのが演技であることはバレバレらしい。


「チッ」


 そっぽを向いて、舌打ちした。


「舌打ちって」


 ロイドは笑う。

 雰囲気は穏やかで、いい感じだ。しかしそこにピシリと緊張感が走る。


「でも冗談ではなく、無理だ。協力は出来ない」


 ロイドは首を横に振った。いつになく真面目な顔をする。


「にゃんで?」


 ボクは尋ねた。理由もなく、ロイドは断わらない。自分が知らない何かがあるのかもしれないと疑った。


「王家には出来るだけ、関わりたくない」


 ロイドは答える。

 至極もっともな返答だ。

 前世のことを全て思い出す前なら、ボクもその意見に賛成しただろう。面倒事は避けて通りたい。


「でももう結構関わっていますよね?」


 ボクが突っ込みたいことをルーベルトが突っ込んでくれた。

 ロイドはもうけっこう関わっている。なんだかんだと理由に付けて、2回に一回くらいはボクと一緒に呼びつけられていた。あれこれ言い訳して断わろうとしているが、ロイドの性格をよく知っているらしいミリアナに先手を打たれている。


(恋する女の一念って強い)


 全く脈が無いのに頑張れるミリアナにボクは感心していた。


「それは……」


 ロイドは返答に困る。関わっている自覚はあるようだ。


「今、何かあったら確実に巻き込まれますね」


 アルバートが追い打ちを掛ける。ボクが言いたいことを2人が言ってくれる。


「にゃあにゃあ」


 ボクはそうだそうだと賛成するだけで良かった。


(ルーベルトは本当はボクの考えに反対なのに、それでもアルバートのために協力してくれるんだよね)


 愛されているな~と思って、アルバートを見る。ボクの視線の意味がわからないアルバートは不思議そうな顔をした。

 ボクはにこっと笑う。視線をロイドに戻した。


「王女と王子が仲良く出来たら、みんな安心、みんなハッピー」


 そうでしょう?--と、問うようにロイドを見る。


「簡単に言ってくれるね」


 ロイドは呆れた。


「こういう問題は根深いんだよ」


 無理だと、首を横に振る。


「でも、愛と憎しみは表裏一体だ。愛が憎しみに変わることが簡単なように、憎しみが愛に変わることがあったっていい」


 ボクの言葉に、ロイドはなんとも微妙な顔をした。


「2人が仲良く出来ると、本気で思っているの?」


 ボクに問う。


「にゃあ」


 ボクは頷いた。

 血が繋がっているから、難しい事ってある。でも嫌いでも憎んでも家族だから切り捨てられない何かもきっとある。


「王族じゃなかったら兄弟ケンカなんて放っておくけど、お家騒動になって巻き込まれるのは嫌だにゃん」


 ボクは主張した。

 別にみんな仲良くなんて理想論、掲げるつもりはない。だが、上に立つ人間は仲良くしてくれないと下が困るのだ。


「それはまあ……、そうだけどね」


 ロイドは困った顔をする。


「にゃあ?」


 ボクは返事を求めた。


「少し、考えさせてくれ」


 ロイドは答える。


「にゃあ」


 いいよとボクは鳴いた。

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