13-5 決意。
寝て起きたら、ベッドに一人だった。アルバートはいない。先に起きたようだ。ベッドに触れると、すでに冷たい。起きたのは結構前らしい。
時計を見るとまだ少し早かった。アルバートはぎりぎりまでボクを寝かせてくれるつもりなのだろう。
(甲斐甲斐しい)
そう思った。
ボクは下着もパジャマも付けている。寝ていた間に、アルバートが着せてくれたようだ。
(それはそれで……)
そう思わないでもない。だが、善意なのはわかっていた。何も言わないことにする。
それより、ボクには決意したことがあった。
「にゃあ、にゃあ」
ベッドの上で鳴く。アルバートを呼んだ。
「ノワール?」
鳴き声を聞いて、アルバートが寝室を覗く。
「にゃあ」
ボクは両手を広げて、抱っこを求めた。そんないつも通りのボクに、アルバートが安心した顔をする。
ボクがアルバートとの関係が変わるのを恐れたように、アルバートも今のボクとの関係が変わることを心配していたようだ。互いにちょっと不器用なところは変わらないらしい。
アルバートはボクを抱っこする。
「おはよう」
挨拶された。チュッと頬に唇が触れる。
「にゃあ」
挨拶を返して、チュッとボクも頬にキスをした。
いつもと同じ……では無いかもしれないが、いつもと変わらない。甲斐甲斐しく、アルバートはボクの世話を焼く。たくさん頭を撫でられ、たくさんぎゅっと抱きしめられた。
いつも以上にスキンシップが激しい。
「何かあったの?」
ルーベルトに訝しい顔をされた。
「にゃあ」
ないよとボクは答える。
アルバートは何も言わなかった。
朝食はアルバートの膝の上で抱っこされ、食べさせられた。いつも以上に甘いアルバートにボクもいつも以上に甘える。
朝からいちゃいちゃしているボクたちにルーベルトは呆れ顔だ。
だがそんなルーベルトをもっと呆れた顔にさせることをボクは言わなければならない。
朝食を食べ終わったところで、ボクは自分の決意を口にした。
王女と王子を仲良くさせたいと告げる。
唐突なその言葉に、当然、二人は驚いた。
「え?」
アルバートもルーベルトも目を丸くする。
「……」
「……」
二人は互いに顔を見合わせた。
ホクの提案はある意味、余計なお世話だ。そんなことわかっている。だが、ボクは自分には関係ないと放っておいたことに自分が巻き込まれて迷惑を被る場合があることを思い出してしまった。
ボクはミリアナのお気に入りだし、アルバートとルーベルトは王子と仲良くしている。きっともう他人事では無い。
二人を中心に何かが起こった場合、ボクたちは否応なく巻き込まれるだろう。
だからその前に、二人には仲良くなってもらおうと思った。
「王子と王女を仲良くさせるなんて、無理だろう?」
ルーベルトは反対する。
「そもそも何故、ノワールがそんなことをしなければならないんだ?」
理由を問われた。当然の疑問だろう。
「このまま二人の関係が微妙なままでいると、いつか、何かが起こるかもしれない。その時、巻き込まれるのが嫌だから」
ボクは説明する。アルバートを見た。
アルバートはとても難しい顔をしている。だが、言いたいことは伝わっていると思った。
アルバートの脳裏には自分に関係ない不倫にボクが巻き込まれたことが思い浮かんでいるだろう。
元カノの不倫にボクは全く関係なかった。
だが、巻き込まれてしまう。あの日、彼女がボクの部屋に来たから。
災いの種は放置してはいけないのだと、ボクは学習した。
王女にも王子にも、おそらく、争い事を起こす意思はない。だが、本人たちにその気があるかないかなんて関係なかった。仲が良くなければ、それだけでつけいる口実になる。王子のため、王女のためと、勝手な行動を起こす家臣がいないとも限らなかった。
二人の仲が微妙なことは、ボクたちにとって危険だ。ボクは二度も巻き込まれて命を落とすつもりは無い。それにアルバートやルーベルトを危険に晒したくなかった。
ボクはそれをルーベルトに説明する。
「なるほど」
ルーベルトは一応、納得した。自分たちにとっての危険を排除するという考えに理解を示す。
「しかし私達に何が出来るんだ?」
もっともな質問を投げかけられた。ボクも自分たちだけで何か出来るなんて思っていない。
「ボクたちだけでは無理だから、先生達も巻き込む」
ボクはにっこりと答えた。ロイドやカールを巻き込むことを告げる。
「妥当な選択だね」
アルバートは頷いた。
「でも、簡単なことではないよ」
ロイドやカールがそんな厄介事に手を貸したがるわけがない。簡単にはいかないだろう。
「にゃあ」
わかっているとボクは鳴いた。でも、やらなければいけない。
(だってボクは幸せになるためにネコに生まれ変わったんだから)
お家騒動なんかに巻き込まれて堪るかと思った。
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