11-7 仲良し。
散歩から帰ってきたとき、ボクとミリアナはだいぶ仲良くなっていた。そんなボクたちの様子に、周りの人たちは驚く。
その周りとは王子と王女の側近達だ。彼らはテーブルを囲んだボクたちから少し離れた所に立って、こちらを見ていた。
ミリアナはボクを抱っこしたまま椅子に座る。膝の上に乗せたボクをぎゅっと抱きしめた。
「にゃあ」
ボクも遠慮なく甘える。
ミリアナはよしよしとボクの頭を何度も撫でた。
「にゃあ、にゃあ」
ボクもミリアナにすりすりする。
これでもかというくらい、王女や王子の側近たちに見せつけた。どちらの側近もみな、困惑の表情を顔に浮かべている。王女の穏やかな表情に驚いていた。
そして、王女に甘えるボクはたぶん物凄く怖い物知らずだと思われているだろう。
「ふふっ。いい子ね」
ミリアナはとても柔らかな優しい表情を浮かべていた。
ざわっといろんな意味での動揺があちこちに走る。側近達は何故かそわそわしていた。
気にせず、ボクとミリアナは仲良くする。
そんなボクにアルバートは不安な顔をしていた。
(大丈夫だよ)
口の形だけで伝えようとするが、伝わったかはわからない。
「さて。名残惜しいけどお開きにしましょう。あまり長い時間引っ張り回しては、ノワールが疲れるでしょうから」
ボクを気遣う言葉を口にした。
「にゃお」
同意するようにボクは頷く。もう、ちょっと眠い。
「アルバート・ロイエンタール。こちらへ」
ミリアナはアルバートを呼んだ。
「はい」
アルバートはミリアナに近づく。
「にゃあ」
アルバートにボクは手を差し出した。抱っこしてと強請る。
だが、アルバートは困っていた。ボクを勝手に取り戻していいのか葛藤している。
「連れて行っていいわよ」
ミリアナはそう言った。
アルバートは露骨にほっとした表情を浮かべる。
(貴族様がダメだよ。そんなにわかりやすくちゃ)
そう思ったけれど、悪い気分ではなかった。アルバートはボクを好きすぎる。
「失礼します」
理を入れてから、アルバートはボクをひょいっと抱上げた。自分の腕の中に取り戻す。ぎゅうっと強く抱きしめられる。
ボクもアルバートを抱きしめ返した。
「大切なのね」
ミリアナが呟く声が聞こえた。振り返ると、少しばかり切ない顔をしている。それは羨ましそうにも見えた。
「はい」
アルバートは素直に頷いた。
「正直過ぎる」
ロイドがふっと笑う。
「捻くれているよりはマシでしょう」
ミリアナは意味深に言った。
(ん? どういう関係??)
ボクはちっょと引っかかりを覚えた。
(もしかして何かあるの?)
俄然、興味が湧く。ロイドが静かすぎることは気になっていた。
じっと見つめると、ロイドはすっと目を逸らした。逃げられる。
(チッ)
心の中で舌打ちした。もっとも、この場では問い詰めることもそもそも出来ない。
「可愛いネコね」
ミリアナは呟いた。真っ直ぐにボクを見る。
アルバートはボクを抱っこしたまま、自分の席に戻った。
「恐れ入ります」
アルバートは小さく頭を下げる。
「その子と一つ、約束したの」
ミリアナの言葉に、アルバートの眉はぴくりと動いた。ボクを見る。
「にゃあ」
ボクは返事をするように鳴いた。
「週末とかに遊びに来てくれるそうだから、連れてきてね」
ミリアナは微笑む。
口調は柔らかいが、それは命令だ。
「……はい」
アルバートは返事をする。それ以外、返答のしようはない。
アルバートの返事を聞いて満足したのか、ミリアナは立ち上がった。
すっと側近の1人がミリアナに寄る。
「戻ります」
側近にミリアナは告げた。王宮の中に向かって歩き出す。
テーブルの席に座っていた誰もが、慌てて立ち上がって王女を見送った。
張り詰めていた空気は一旦、和らいだ。
カールがふっと息を吐く。わりと普段通りに見えたが、カールも一応、緊張していたようだ。
「それで、何があったのかな?」
王子が真っ直ぐにボクを見た。
「にゃあ?」
ボクは可愛く小首を傾げる。鏡を見ながら研究した角度に首を曲げた。自分的にはこの角度がマックスに可愛かった。
「うわっ。あざとい。可愛い」
ロイドが茶化すように笑う。
「にゃあ」
煩いと、ボクはロイドを睨んだ。可愛いことなんて、知っている。
そして、可愛いは正義だ。
「あの姉上があんなに優しくするなんて。魔法でもかけたのかい?」
とても失礼なことを言われた。
そんなことをしたら、不敬罪かなんかで極刑だろう。冗談でも止めて欲しい。どこで誰が聞いているのか、わからないのだから。無責任な噂はそれが突拍子もないものほど広まる。
(何故だろう。ボク的には王女より王子の方がイラッとするな)
心の中でべーっと舌を出した。
答えてやる義理はないので、失礼なことをいうやつはスルーする。
「うにゃあぁぁぁ」
鳴きながら、アルバートに甘えた。眠くて、ぐずる。
「すみません。王子。ノワールはもうおネムみたいです」
アルバートの肩口に顔を埋めたら、よしよしと頭を撫でられた。
「みんなその子に甘過ぎない?」
王子は口を尖らせる。
「カールも私よりそのネコの方が可愛いんだろうね」
面倒くさい女みたいなことを言い出した。
(マジでどんな関係?)
こっちはこっちで気になる。だが今は本当に眠かった。
知らず知らずのうちにボクも緊張していたのかもしれない。
(でも、まあ。よくわかんないけど上手くいったんじゃないかな)
穏やかな感じでお茶会が終わったので、良かったと胸を撫で下ろした。
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