11-2 王宮。
王宮へは馬車で向かった。
王都に転移で移動して、そこから馬車に乗る。
馬車はあらかじめ王家が手配していたようだ。それっぽい紋章がついた馬車が学園の側で待っている。
貴族は短距離移動の時に馬車を使い、長距離の移動は騎獣か転移を利用するようだ。魔力を無駄に消費しない知恵が見て取れる。
ボクたちは1台の馬車に乗り込んだ。ボクの定位置はアルバートの膝の上なので、人数にはカウントしないらしい。4人乗りの馬車にボクを含めると5人乗った。
ボクは窓から外の景色を眺める。
城と言われると、山城的なものをボクは連想した。わかりやすく例えるなら、マンガやアニメに出てくる魔王城みたいな孤立した建物のイメージだ。
だが実際に向かっているのは王都のほぼ真ん中で、王宮はヴェルサイユ宮殿みたいな感じに近いようだ。平地にあって、庭園が長く続いているらしい。その奥に建物があり、それは一つではないようだ。敷地内には離宮と呼ばれる屋敷がいくつか点在しているらしい。
ロイドの説明をボクは楽しく聞いていた。気分は、ガイド付きで観光している感じだ。
「にゃあ、にゃあ」
ロイドの解説に相槌を打つ。
だが、観光気分なのはボクとロイドだけのようだ。みんなはどこか悲壮な顔をしている。ボクとロイドが黙ると、馬車の中はしんとお通夜みたいに静まり返った。
(考えても仕方ないのに)
ボクは心の中で呟く。
みんなが何を心配しているのかはわかっていた。厄介な王女様のことだろう。
王女についての話を聞いたボクたちは対応を相談した。だが、いい案なんて出るわけがない。王女が何をするつもりなのか、まったく予想がつかなかった。
王女は気まぐれで、行動に一貫性はない。思いつくまま好き勝手に振る舞っていた。そんなネコのボク以上に動物的な彼女の行動予測なんて誰にも出来ないだろう。
結果、なるようにしかならないという結論に達した。
それがアルバートは不満らしい。ボクを取り上げられることをとても危惧していた。
「にゃあ」
ボクはアルバートの顔に頬をすりすりする。わかりやすく機嫌を取った。
そんなボクをアルバートはぎゅっと抱きしめる。
今日のボクはアルバートと同じ生地を使って作った服を着ていた。基本的にアルバートと服と形は同じなのだが、袖口や襟元にレースやリボンが多用されている。服のイメージはだいぶ違うものになっていた。だが、2人で並べはおそろいなのは直ぐにわかるだろう。
(ほぼペアルック)
ボクはちょっとウキウキしていた。前世ではペアルックなんてバカップル丸出しで恥ずかしいと思っていた。だが、今日のボクはアルバートのものであることがよくわかって、なかなかいい感じだと思う。
ちょっとした牽制くらいにはなることを期待した。
「にゃあにゃあ」
大丈夫だと慰めるように、ボクは鳴く。チュッチュッと頬にキスすると、強張っていたアルバートの表情も少し和らいだ。
「何があってもノワールは守るよ」
アルバートは約束してくれる。
「にゃあ」
それに返事をするように鳴いたが、本心はまったく逆だ。何があってもアルバートをボクが守ろうと思っている。
ネコだから許されることは人間より多いだろう。
そんなことを考えていたら、馬車が止まった。
馬車は門のところで一旦、止まった。敷地に入る許可を取る。王宮から遣わされた馬車であっても、チェックは入った。
馬車のドアを開け、門番が中を見る。リストと人数を照らし合わせた。
「大人が2人、少年が2人、子供が1人」
仕事熱心な門番はボクがただの子供では無い事に気付かない。ネコミミが見えていないようだ。
自分の職務に没頭している。
どういう意味でもスルーされることなんてないので、ちょっと新鮮だった。
チェックをクリアし、馬車は門の中に入れてもらえる。そのまま正面の建物の玄関へと真っ直ぐに向かった。
玄関から出迎えの人が出て来る。
「え?」
窓から外を見ていたカールが小さな声を上げた。びっくりしている。
そんなカールにボクの方がびっくりした。
剣士だからなのか、こう見えてカールは意外と冷静沈着だ。驚く姿はあまり見ない。
(何に驚いたのだろう?)
気になって窓から外を見たが、わからなかった。
馬車が止まると、いの一番にカールか下りる。
「王子。どうしてこことに?」
困惑した声で問いかけた。
(なるほど。王子様が出迎えに来たらびっくりするよね)
ボクは心の中で納得する。だが、暢気にそんなことを思っていたのはボクだけだった。アルバートやルーベルトは王子と聞いて動揺している。
ロイドは平然としていた。最初から王子の存在に気付いていたのだろう。
「勝手な呼び出しで迷惑をかけたからね。せめてもの罪滅ぼしに」
王子と呼ばれた少年は微笑む。
年はアルバートやルーベルトと同じくらいに見えた。とても穏やかな印象の、のほほんと育った人に見える。だが小さな頃から姉に苦労させられていると聞いている。たぶん、見た目通りの人ではないのだろう。
ちなみに顔立ちは当たり前のようにいい。落ち着いた渋めブロンドに瞳は深い緑だ。温和な印象はそういう髪や瞳の色とも関係しているのかもしれない。
そんなことを考えていたら、視線がこちらに来た。
じっと見つめられる。
(なんか……。気まずい)
ボクは困った。だからと言って、目を逸らすのも不自然だろう。結局、見つめ返すしかなかった。
「この子がネコなのかい? びっくりするくらい可愛い子だね」
そう言いながら、ボクに手を伸ばしてきた。
当然、ボクは愛想をふりまく。
「にゃあ」
愛らしく鳴きながら、頬に触れた手に自分からすりすりした。
「賢い子だね」
可愛いではなく、賢いと言われた。胡麻をすったのが気付かれているらしい。
(ばれている)
そう思ったが、その程度のことで動揺なんてしていられない。さすが一国の治めることになる王子だと素直に感心することにした。
「にゃあ」
可愛く、もう一声鳴いた。
「初めまして」
その後に、アルバートが口を開く。挨拶した。自分とルーベルトを纏めて紹介する。
「姉のわがままに付き合わせて、すまない。少しだけ、あの人に付き合ってやってくれ」
そんな風に王子は頼んだ。王族にしてはずいぶんと腰が低い。そう感じたのはボクだけではなかったらしい。
「王子、そのような物言いは。側近の方々が渋い顔をしていますよ」
謙りすぎだと、ロイドが注意した。こういう時のロイドは先生っぽい。王子のおつきっぽい人たちが確かに困った顔をしていた。
(丁寧に人と接するのがダメなんて、王族って面倒くさい)
心の中でボクがぼやいていると、王子は笑う。
「姉を反面教師にするとこうなるんだよ」
そんなことを言った。
それに対し、誰も何も言わない。聞こえなかったようにスルーした。
「さあ。ここで立ち話も何だから案内しよう」
王子に促され、ボクたちは歩き始める。
お茶が用意されているという中庭に向かいながら、王子は度々、調度品などを説明してくれた。もてなしてくれているのが伝わってくる。
王子の印象は普通に良かった。
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