10-3 薔薇の会




 四大公爵家は国を支える基盤だ。

 そのため、この四つの家は何があっても守られなければならない。一つでも力を失えば、国の根幹が歪む恐れがあった。

 その四大公爵を守り、力が拮抗擦るように調整する組織がある。組織には名前はない。だが、手紙を封印する蝋に押す薔薇を象った印が特徴的だ。

 そこから組織は通称、薔薇の会と呼ばれている。


 その話をざっくりとアルバートからボクは聞いた。


 その薔薇の会の呼び出しをアルバートは待っていたらしい。

 ボクに手を出すところがあるなら、薔薇の会が一番可能性が高いようだ。イレギュラーな存在を薔薇の会は厭う。

 その組織は本拠地も構成員も全て不明だ。こちらからは一切接触が取れない。相手からの呼び出しを待つしか無いので、アルバートはわざと目立つ行動を取った。

 目立ちすぎれば、向こうから連絡が来るだろうと踏む。

 おじいちゃんがボクを気に入ったことで、その悪目立ちはより加速した。それはアルバートの望むところでもある。


 そして、薔薇の会に対応するための協力をロイドとカールに求めた。自分やルーベルトでなんとか出来る訳がないし、この件に関しては父もあまり当てにならないとアルバートは考える。薔薇の会にしがらみがない分、ロイドやカールの方が自由に動けると思った。

 ロイドはそもそも薔薇の会に興味があったので、二つ返事で引き受けたらしい。

 四大公爵家絡みでなければ薔薇の会は出てくることがない。普通の貴族には接触も不可能な存在だ。

 むしろチャンスとロイドは捉えたらしい。

(ロイドっぽい)


 話を聞いて、ボクはそう思った。

 ロイドとカールがロイエンタール家に滞在しているのもそのためだ。連絡が来てからでは、2人を呼び出すのが間に合わないかもしれない。

 手紙が届くのをアルバートはずっと待っていた。






 呼ばれて、ロイドはウキウキとやってきた。その後ろからカールが続く。

 2人は今日、市井に買い物に出ていた。いつも仲良しだが、その関係を突っ込んで聞いたことは一度もない。気になるが、興味本位に聞くのもどうかとボクは思った。

 街に出ていた割に早いなと思ったら、転移魔法をしれっと使ったらしい。


(やる気がありすぎる)


 ボクは心の中で苦笑した。

 この家の庭をマーキングしたので、どこからでもその気になれば庭に転移できるらしい。もちろん、それはロイドが居ての話だ。他人にはロイドのマーキングは利用できない。

 だが、簡単に庭に来られちゃうのは防犯上、どうだろうとボクはちょっと思った。

 それを今、口にするとほ無粋ではない。


 自分の部屋にいたルーベルトもアルバートの隣にいた。


「招待状、来たんだって?」


 目をらんらんと輝かせて、ロイドは問う。


「はい」


 アルバートは頷いた。

 まだ封を開けていない手紙を差し出す。

 ロイドは受け取り、蝋の封印を確かめた。確かにそれは薔薇の花に見える。


「本物だな」


 頷いた。


(見た事、あるの?)


 思わず、心の中で突っ込む。四大公爵家に関係のないロイドに印を見る機会はあるのかとちょっと疑った。


「見た事、あるんですか?」


 同じことをアルバートは聞く。疑問に思うことは同じらしい。それは魂の一部が繋がっているからかもしれない。ボクとアルバートはどこかリンクしていた。


「ああ。君たちのおじいさんの所に届いたやつを……」


 ロイドは少なからず、気まずい顔をする。

 前公爵の部下のような立場にいたことはロイド的には黒歴史のようだ。語りたがらない。

 アルバートはロイドから手紙を返して貰い、封を開けた。

 中にはカードが入っている。

 時間と場所が書いてあった。中身はそれだけで、何の説明もない。


「ここに来いってことかな?」


 アルバートは首を傾げた。


「それ以外、取りようがないな」


 ロイドは頷く。


「ここが本拠地ってことか?」


 カールは興味深そうにカードを覗き込んだ。書かれている場所をトントンと指先で叩く。


「そんなわけないだろ」


 ロイドは苦く笑った。そうであったらどんなに楽か。そもそも、あの組織には本拠地なんてものがあるのかも怪しい。


「四大公爵家のどこかの家の別荘だろうな」


 教えた。


「どうしてそうだとわかるんですか?」


 ルーベルトは尋ねる。


「今までがそうだったからだ」


 ロイドは答えた。


「薔薇の会は四大公爵家の持ち物ならどこでも何でも借りられる。今回はロイエンタール家以外の3つの家のどこかの持ち家でしょう」


 その説明を聞いて、ボクは納得する。

 四大公爵家も薔薇の会には気を遣うようだ。貸して欲しいと頼まれたら、断れないに違いない。


 指定された日は三日後だ。


「準備は何かありますか?」


 アルバートは聞く。


「どうだろうな?」


 ロイドは首を傾げた。さすがにそこまでは知らない。

 前公爵に連れられて呼び出しの場所に同行したことはあるが、説明は一切無かった。手紙も、封筒は見た事があるが、中身は見せられたことがない。だが、必要なものがあればそういう記載はあると思えた。


「何も書いていないなら、身一つで来いという意味じゃないかな? そのあたりは、祖父や父に確認してみる方がいい」


 ロイドは勧める。


「そうですね。そうします」


 アルバートは頷いた。


「……にゃあ」


 自分の為になにやら大事になりそうな予感に、ボクは一声鳴く。

 申し訳ない気持ちで一杯だ。


「ノワールは何も悪くないよ」


 アルバートは慰めてくれる。よしよしと頭を撫でられた。

 だが、自分のせいじゃないとは思えない。

 魔法を習ってみたかったばかりに、獣人のふりなんてしたのがそもそもの原因だ。明らかに、自分のせいだろう。


(ネコのままでいれば良かったの?)


 そう思って、反省した。


「落ち込む必要はない。ノワールは今のままでいい」


 アルバートは囁く。ボクの顔を両手で挟んで捕まえ、真っ直ぐに目を覗き込んだ。


「今のノワールが好きだよ」


 そう言うと、キスされる。


「にゃあ」


 ボクもと言うように一声鳴いて、自分からもチュッチュッとアルバートにキスをした。



 

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