9-4 追試。
起きたら、アルバートの腕の中にいた。
「んにゃ?」
不思議に思って、アルバートを見上げる。
確か、カールと一緒に昼寝していたはずだ。試験が終わるのを待っているのが退屈で眠くなる。一緒に横になったカールをちょっと邪魔に思っていたが、追い出すほどではなかった。そのまま眠る。
それがいつ、アルバートの腕の中に移動したのだろう。
「起きたのか?」
そう言いながら、アルバートの手が頬に触れる。
「にゃあ」
とりあえず、その手に頬ずりしておいた。そのままアルバートに抱きつく。
「にゃあにゃあ」
お帰りと伝える。伝わっているかは、わからないけど。
アルバートの手がよしよしと背中を撫でた。
ボクはすりすりとアルバートの肩口に顔をこすりつける。
「いいなあ、それ」
ロイドのぼやきが聞こえた。
「にゃ?」
振り返って、ここがロイドの教官室であることを知る。アルバートとルーベルトはソファに座って、ロイドとカールと一緒にお茶を飲んでいた。
たいして移動はしていなかったらしい。
「にゃあにゃ?」
試験は終わったのか、聞いた。普通に喋るべきか迷って、とりあえずネコ語でいってみる。ネコ語でもアルバートとならけっこう意思の疎通がはかれた。ずっと一緒にいると、感じ取れるようになるらしい。
「ん? 何?」
だが、さすがに無理だったようだ。アルバートは首を傾げる。
(脈略、ないしね)
ボクは仕方ないと思った。
部屋の中に他に人が居ないことを確認してから、口を開く。
「試験は?」
尋ねた。
「終わったよ」
答えながら、アルバートは頭を撫でる。お留守番出来て偉いねといいたいようだ。
(寝ていただけだけどね)
そう思ったが、褒められておく。可愛く一声、にゃあと鳴いておいた。
「成績は?」
結果が気になっていたから、聞いた。
「2人とも中級の一級だよ」
ロイドが答える。
それが良いのか悪いのか、ボクにはよくわからない。
普通はどのくらいなのだろうと首を傾げた。
「普通は中級の四級。良くて三級だから、かなりいい成績だな」
カールが感心する。
(説明、ありがとう)
聞きたいことを言ってくれて助かった。
「ああ。もう少し上のランクまでいけそうだったんだが、これ以上上げると面倒な事になりそうなので、このくらいにしておいた」
ロイドがカールに説明する。
「そうだな。あまり特出するのは貴族社会ではよくない」
カールは同意した。脳筋で何も考えていなさそうなのに、腐っても貴族だ。そういうところはちゃんとしているらしい。
ボクはロイドをちょっと見直した。別に今までも、バカにしていたわけではないけれど。もっと直感で生きる野生の人だと思っていた。
「途中で棄権が出来るなら、ボクも……」
試験が受けられたのではないかと思って、口を開く。
不名誉な追試を受けるのを少し不満に思った。
追試を受けるくらい悪い成績、前世では取ったことない。成績は常に上位の方だった。
「四大公爵家と従者の獣人が同じ扱いな訳がないだろう?」
ロイドは真顔でボクを見る。
「にゃ」
確かに、とボクは頷いた。
アルバートやルーベルトはロイエンタール家の人間だ。学園は爵位に関係なくみんな平等だとうたっているが、それが建前であることは誰もが知っている。差別はしないいが、平等ではない。上級貴族は優遇されていた。
貴族社会ではそれが普通のことで、その理を破ると後々問題が出る。
学園は社会の縮図でもあった。平等ではない貴族社会を上手に渡り歩く術を学ぶ場にもなっている。
「アルバートやルーベルトに対しては、本人がこれ以上のランクを望まないことを意思表示すれば、それが通る。だが、ノワールに同じ事は適用されない。それは身分社会では当然のことだし、何より、教官というのは研究者だ。獣人がどこまで出来るのか、興味を持たない訳がない。失敗するところまで、どこまでもやらせるよ」
その言葉に、ボクはぶるっと身体を震わせた。そんなこといって、どこまでも出来てしまったらどうするのだろう? 魔法は失敗したら、力の反動を受ける。難しい魔法や強い魔法を失敗すれば反動も当然、大きい。アルバートやルーベルトの棄権が許されたのは、上級の試験を受けて失敗したら笑えない事になるからだ。四大公爵家の子息を怪我させる訳にはいかない。
(むしろ、2人が棄権してくれて教官達はほっとしていたかも)
ボクはそう思った。
「それで、ノワールの追試だが、いつにする? なんなら今夜でも構わないが」
ロイドはアルバートに聞く。
アルバートはボクを見た。
「今夜でもいいですよ。昼寝をしたから、寝るのは遅くなるだろうし」
ボクの頭をよしよしと撫でる。手が耳に触れて、ちょっとくすぐったい。
ボクは身を竦めた。
アルバートはふっと笑う。
「よく寝てスッキリした顔をしているので、今夜しましょう」
ロイドに言った。
(なんで夜?)
そう思ったが、暗黙の了解的な雰囲気が流れているので聞けない。さくさくと今夜の予定が決まっていった。
夜に追試をするのは人に知られないようにという配慮だったらしい。
転移して実技場に移動する。
夜だが、ロイドは魔石で光るランプを持っていた。それはけっこう明るい。
その明かりの側でボクはロイドに言われるまま、教えられた呪文を唱えて、魔法を使う。
何をするための魔法かは説明されるので想像するのは容易かった。
それは次々と成功する。
言われるまま、ボクは魔法を使い続けた。それがどのランクの魔法なのかはロイドは教えてくれない。
ロイドは手元の紙に何か記入していた。
それはボクだけでなく、カールにも見せない。
(きーにーなーる~)
悶々とするが、試験を受ける立場の人間から説明してくれとはちょっと言いにくい。
そんなことを数十分繰り返した後、もういいよとロイドは言った。
「このくらいにしておこう」
終わりにする。
「これ以上は魔力が続かないだろう?」
問われて、ボクは自分の手を見た。よくわからない。枯渇しそうな感じでもなかったが、そもそも枯渇するほど魔力を使ったことはなかった。とりあえず、頷いておく。
「ボクは何級になるの?」
聞いた。
「中級の二級でどうだ?」
ロイドはボクに提案する。
アルバートたちの一つ下ということらしい。丁度いいと思った。
「にゃ」
OKを簡潔に伝える。
「それで本当は?」
一応、聞いておこうと思って尋ねた。
しかしロイドはただ笑う。教えるつもりはないようだ。
聞かない方がいいらしい。
(何、それ。怖い)
ボクは嫌な予感を覚えた。それ以上は聞かない。
とにもかくにも追試も終わり、後は終業式を待つだけとなった。
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