8-9 相談。





 ロイドは自分が狙われる心当たりはないと言った。

 だが、それは100%自信がある話ではない。可能性は低いが、全くないわけではなかった。

 だから調べる。

 自分の保身のため、とりあえずクリス達3人について徹底的に調査することにした。


 自分のクラブにスカウトした時点で、一応、3人とも身辺調査はしていた。

 ロイドは自分のクラブに、気に入った生徒しか入れない。魔法の研究は浮ついた気持ちでやれるようなものではなかった。仲良しクラブを作るつもりはない。自分の研究に没頭し、周りを気にしないような生徒の方が良かった。研究内容が変わったものであればなお良い。

 そのため、入部を許される生徒は毎年少なかった。

 身辺調査をするのも難しくない。

 どんなに変わった興味深い研究をしていたとしても、危険分子を内側に引き込むつもりはない。

 だが、その時点では気になることはなかった。

 今回はもっと念入りに、どこと繋がっているのかを重点的に調べる。

 そしていくつか、わかったことがあった。

 なかなか頭が痛い事実が判明する。

 そのことを話すために、アルバート達を教官室に呼んだ。




 放課後、アルバートはいつものようにノワールを抱っこしてやってきた。ルーベルトももちろん一緒だ。

 ノワールはアルバートに縋っているが、いつもとは少し様子が違う。

 よく見ると、抱きついたまま寝ていた。

 すやすやと寝息を立てている。


「珍しいね」


 ロイドは微笑んだ。ノワールは寝顔も可愛らしい。

 起きているときはころころと変わる表情が、寝ている時はただただ天使だ。


「昨夜は珍しく遅くまで起きていたんで、寝不足みたいです。授業中は我慢していたんだけど、限界がきたみたいで……」


 くすくすとアルバートは笑った。自分に抱きついたまま眠るノワールが愛しくてならない。ノワールの背中をよしよしと撫でた。

 実はまだ子猫のせいか、ノワールはよく寝る。寮に帰って食事を取ると、そのまま寝てしまうのも珍しくなかった。


「まあ、いい。寝ているなら丁度いいかもしれない」


 ロイドはソファに座るよう促した。

 ルーベルトはアルバートから眠るノワールを受け取ろうとする。別の場所に寝かそうとした。


「やー……」


 だが、ノワールが嫌がる。アルバートから離れたがらなかった。半分、寝ぼけたまま甘える。

 すりすりされて、アルバートはにやけた。嬉しそうな顔をする。

 結局、ノワールはアルバートの膝を枕にソファで横になった。小さい身体を丸めてさらに小さくなって眠っている。

 その頭をアルバートの手が優しく撫でた。本人が寝ていても、猫耳はぴくぴくと反応している。

 アルバートもロイドも笑みがこぼれた。なんとも愛らしい。

 ルーベルトはソファに座らず、アルバートの後ろに立った。


「それで、何がわかったのですか?」


 アルバートは問う。

 いろいろわかったことがあると、呼び出されていた。

 ロイドは少し迷う。言葉を選ぼうとした。だが結局、直接的な言葉を選ぶ。


「動いているのは四大公爵家かもしれない」


 簡単明瞭に告げた。


「……」

「……」


 アルバートとルーベルトは不自然に黙る。

 それは全く予想していない事ではなかった。

 もしかしてと思いながら、そうであっては欲しくないと願う。

 四大公爵家には、その四家で作る組織ようなものがあった。それは4つの家のバランスを取り、力が拮抗するように調整している。極端に力をつけることも、極端に力を落とすことも、同じように歓迎されなかった。


「力のバランスが崩れたと?」


 アルバートは静かに問う。

 ちらりとノワールを見た。寝ていることを確認する。

 ノワールがこの話を聞いていなくてよかったと思った。聞いたら、気を揉むだろう。


「獣人に妖精の加護。その二つをロイエンタール家が手にしたことを是としない者は多いだろう」


 ロイドは頷いた。


「しかし、ノワールはただの猫だ」


 アルバートは言い訳する。

 本当は獣人ではないことはロイドも知っていた。


「むしろ、ただの猫が人の形を取れると知れる方が厄介な事になると思うよ」


 ロイドはそれが何の解決にもならないことを語った。獣人より、さらに珍しがられるだろう。

 実際、ノワールはいろいろと規格外だ。

 存在が知られれば、手に入れようとする貴族は獣人の時より増えるに違いない。いろんな意味で興味深い存在だ。

 その上、見目まで良い。


「では、どうしろと?」


 アルバートは尋ねた。


「難しいね」


 ロイドはため息を吐く。

 正直、どうするのが一番いいのか、ロイドにもわからない。

 ただ、四大公爵家と事を構えるのは不味いだろう。それだけは確かだ。


「もうすぐ長期休暇が始まる。つまり、社交の季節だ。四大公爵家の当主とも顔を会わせる機会があるだろう。その時にノワールを見せて、理解を求めるくらいしか思いつかない。……納得してくれるかはわからないけどね」


 いろいろ考えた結果、ロイドはそれが最良だと思う。


「できるなら、ノワールの事は隠して誰にも見せたくなかった」


 アルバートは呟いた。


「そうだろうね」


 ロイドは理解を示す。連れて歩けば、確実に厄介な事になる。屋敷の外に出さず、隠しておくのが一番いい。

 だがもうそういう問題ではなくなってしまった。


「先生も一緒に来てくれませんか?」


 アルバートは頼む。


「嫌だよ」


 ロイドは即答した。

 アルバートはそんなロイドを縋るように見る。


「こんな時だけ、生徒だって顔しないでよ」


 ロイドは頬を膨らませた。


「四大公爵家が揃うなんておっかない場所、行きたくない」


 ぶるっと身体を震わせる。


「ノワールのこと、心配じゃ無いんですか?」


 アルバートはちらりと眠っているノワールをみた。

 寝顔は天使だ。起きている時よりもっと可愛い。


「心配だけど、我が身はもっと大事。ロイエンタール家の人間ならそう簡単に手は出せないだろうけど、たかが学園の一教師くらい、いなかった事にするくらいは簡単だろ? あの人達には」


 ロイドは怖い怖いと怯えた。


「先生はただの一教官ではないでしょう?」


 アルバートは苦笑する。意味深な顔をした。

 ロイドは自分のこともいろいろとばれているのだと、知る。


「怖いね、四大公爵家」


 ロイドは眉を寄せた。不機嫌な顔をする。


「ノワールのために手を貸してください」


 アルバートは気にせず、頼んだ。


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