8-3 研究
ロイドにお膝抱っこされるのは別に構わないのだが、ずっと見られているのはなんとも居心地が悪い。
ぬいぐるみに魔法陣を付与していると視線を感じた。
「にゃあ」
振り返って文句を言う。
「にゃあ、にゃあ」
自分の仕事をしろと鳴いた。
(まあ、伝わらないと思うけど)
心の中でぼやく。
「え? 何? もっと構えって?」
ロイドは嬉しそうにボクを抱きしめた。ぎゅうぎゅう顔を押しつけてくる。
(ウザッ)
ボクは手でロイドの身体を押し返した。
「にゃあっ!!」
そんなこと言っていないと、腕の中で暴れる。絶対、ロイドはわざとやっていた。 アルバートがいないのをこれ幸いに、ボクを構い倒す。油断すると手とか頬とかにすぐキスしてくるので、ちょっと危険だ。別に減るものではないのでいいかと最初の内は放っておいたら、調子に乗ったロイドが首筋にキスマークなんて残したから、ちょっと面倒な事になる。
アルバートから浮気を責めるような感じで説教をされた。
二度と、ロイドにキスはさせないと約束させられる。別に好き好んでロイドにキスを許した訳でもないのに責められるのは不条理だ。面倒でも、いちいち振り払うことにしている。
そんなボクとロイドの攻防戦にも、先輩達は無関心だ。この部屋の中で、ボクに興味がある人はロイドしかいない。
先輩達は自分の研究に夢中になっていた。
クリスは複数の属性魔法を一回の魔法で使えるよう、合成魔法の研究をしている。なんでそんな魔法が必要なのかと思ったら、氷を出したりお湯を出したりするのもそういう合成魔法になるそうだ。ふつうに水を出すと常温になるらしく、それを冷ましたり熱したりして氷やお湯は作るらしい。
(え? 普通に氷とか出せますけど?)
不思議に思ったが、出来る事は黙っておいた。ややこしくなる予感しかしない。それに、何故氷を出せるのかの原理はボクにもわからなかった。
氷が欲しいと思ったら普通に出せたので、そういうものなのだと勝手に納得している。それが普通では無い事なんて、誰も教えてくれなかった。
そういえば、ボクは人前でほとんど魔法を使わない。
調整があまり上手くないので、基本的には使うなとアルバートに言われていた。それにボクが自分で魔法を使わないとならない状況になることはほぼない。生活魔法でさえ、アルバートかルーベルトがボクの代わりにやってくれた。
ロイドが担当する実技の時間は個別の課題を渡されることが多く、みんなからは隔離されている。
(あれ? 気付いてなかったけど、もしかしてボクの魔法って隠されているんじゃない?)
今頃、その事実に思い至った。
だったら、一言言ってくれたらいいのにと思う。でも言われたからって自重するような性格でもないなと自分で気付く。
知らないところで、守られていたことを感じた。
エリザベートは魔石に複数の魔法陣を仕込む研究をしている。これはとても実用性が高く、成功したら莫大な富を生む可能性があった。エリザベートの目的は富の方にはないようだが、彼女の実家はその富を当てにしているらしい。なんとか在学中に実験を成功させて欲しいと願っているようだ。ロイドも助言を求められているらしい。
だがボクが見る限り、ロイドは必要最低限のアドバイスを求められた時にしかしていなかった。そしてエリザベートは意外と頑固で、他人に頼るのは嫌いなように見える。本当に困った時しかロイドには頼らなかった。
それを知っているから、ボクも何も言わない。エリザベートの研究を見ているといくつか気になることがあったが、それを口にするのは止めていた。ロイドにも余計なことは言うなと釘を刺されている。先輩達の前では猫の言葉しか話せない事になっているので、ちょうど良かった。
猫の言葉しかしゃべられないふりは意外と身を助けているようだ。
カインズの研究は自分の変わった属性に関するものだ。
闇属性と言って、名前は物騒だが生命エネルギー系に作用するらしく、怪我の治癒とかにも使える。非常に便利かつ有効性の高い属性だが、その属性を使える人は極端に少ない。
ボクも使えないか試してみたが、ダメだった。何でも出来ると思っていたが、何でもは間違いだったらしい。その代わり、闇属性以外は全て使えることが判明した。どうやら、闇属性は他の属性との相性が悪いらしい。闇属性を持っている人は他の属性魔法はからきしで、生活魔法でさえ難しいようだ。学園生活は使用人を同伴できないので、カインズはいろいろと苦労しているらしい。
魔法というのはでたらめな力ではなく、ちやんと法則性があるようだ。
それがわかると、扱いやすくなる。
課外活動の時間は思ったよりずっと有意義だ。自分の研究だけでなく、人の研究を見ているのも勉強になる。
ロイドとの攻防に疲れて、ちょっと休憩してお菓子を食べながらそんなことを考えていた。ロイドは大人しく、ボクの頭を撫でている。時々、猫耳を触ろうとするのは頭を動かして避けた。
猫耳を弄られるのはあまり好きではない。ぞくっとするので、相手は選んでいた。ロイドは面倒そうなので、却下している。
「にゃっ」
嫌だと首を振ると、目の端にきらっと光るものが見えた。
(あっ。ヤバイ)
猫の勘がボクに告げる。
とても悪い予感がした。
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