5-2 課外活動見学
学園生活が始まって二週間が過ぎ、ボクはすっかり同級生達に馴染んだ。
どれくらい馴染んだかと言うと、連日、ボクのヘアアレンジ大会が女子の間で開催されるほどだ。
ボクの髪はさらさらの銀髪ストレートだ。それを肩につくくらいの長さで切りそろえてある。ちょっとしたヘアアレンジなら出来るくらいの長さだ。
それが女の子達のボクを可愛くしたいという乙女心(?)を刺激しまくるらしい。
遠慮がちに提案されたヘアアレンジを、ボクが可愛くなることに関しては懐が広いアルバートは二つ返事で受け入れた。
それ以来、毎日違う子がボクの髪をアレンジしてくれる。
今日は耳の下あたりで二つに結び、まずそこにリボンがついていた。それから三つ編みにもリボンが一緒に編み込まれている。そして毛先でも小さくリボン結びされていた。かなりファンシーなできあがりになっている。
アルバートはそんなボクにご機嫌だ。いつもよりべたべた触ってくる。ちょっとウザい。
ルーベルトの陰に逃げ込んだ。
アルバートは不満そうな顔をしながらも、手を引っ込める。
そんな感じで一日は終わった。
ちなみに授業の方はとても順調だ。毎回、授業の終わりにそれぞれの理解力を測るために小テストが行われる。今のところ、ボクもアルバート達も満点を連発していた。
感覚的には中学校の科学や数学の授業を受けている感じなので楽勝だ。魔法を使うのに必要な知識を身につけるのが目的なので、これ以上高度な知識は求められていないようだ。
可愛く愛想を振りまいてお菓子を食べているだけのように見えるボクの成績がトップクラスなのは、ちょっと感じが悪い。そのことに突っかかってくる相手が一人や二人はいるのではと思ったが、そんなことはなかった。基本的に貴族のお坊ちゃんやお嬢さんしかいない学園は平和らしい。金持ちケンカせずという言葉を思い出した。
(お金持っている人は余裕もあるってことか)
決して、安いものでは無い菓子をぽんぽん与えても懐が痛まないくらいにはみんな財力がある。学園は苦労知らずの集まりだ。
おかげで楽しく学園生活が送れている。ボクは満足していた。
課外活動は学校が始まり、一年生がそれに慣れた頃から見学会が始まる。
入るところが決まっているなら見学会なんて必要無いと思うが、そういうわけにはいかないらしい。見学会にも参加することになった。
(面倒くさい)
そう思わない訳ではないが、授業では教わらない魔法陣を覚えられるならそれはそれで面白いとも思う。
アルバートとルーベルトは剣術クラブに行く前にボクをロイドの教官室まで送ってくれた。抱っこされて運ばれていると、相変わらず視線を感じる。
教室にいる同級生たちはさすがに慣れたが、たまにすれ違う程度の人たちはまだまだボクが物珍しいらしい。無遠慮にじろじろ見られた。
鬱陶しいが、スルーする。
この容姿になってから、いちいち見てくる相手に対応するのは面倒なことを知った。
だが、声を掛けられるとそういうわけにもいかない。
「アルバート」
呼び止める声があった。
その声に聞き覚えがあるのか、アルバートの身体がぴくっと反応する。
それは良い方の反応ではなかった。
ルーベルトが少し眉をしかめたのもボクは見逃さない。
どうやら、相手は2人にとって歓迎できない人のようだ。
ボクは振り返って、呼び止めた人間を見る。
少し大柄な少年というより青年に近い感じの3人組だ。上級生なのがわかる。
顔立ちはわりと整っていた。でも、どこかに横柄な感じがある。たぶん、爵位は高いのだろう。
(なんとなく嫌な感じ)
そう思った。
「久しぶりだな。課外活動はうちに来るのだろう?」
相手は足を止めたボク達に近づいてくる。
その視線が遠慮無くボクに向けられた。じろじろ見られる。
「ええ。剣術クラブに見学に行きます」
アルバートが答えた。
「そうか」
聞いたくせに、どうでもいいように流す。会話の切っ掛けに出しただけで、興味は無いようだ。彼の興味は明らかにボクに向けられている。
「それが噂の獣人か?」
そう言って、手を伸ばしてきた。
どうやら、ボクは噂になっているらしい。
(どんな噂なのか知りたくもないけど)
心の中でぼやいた。
「シャーッ」
伸ばされた手に歯をむき出しにして、威嚇する。
「!?」
相手はびっくりしていた。伸ばした手を引っ込める。
だがそれ以上にアルバートとルーベルトが驚いていた。
今まで、ボクは相手を威嚇した事なんてない。
猫だけど、前世が人間のボクの考え方は人間拠りだ。嫌いな相手ともそれなりに上手く付き合おうと思う。威嚇し、相手を拒絶することはなかった。
だが、目の前の彼のことは嫌いだ。理由なんてない。アルバートもルーベルトも彼のことを好きでは無いということだけでボクには十分だ。
「シャーッ!!」
寄るなと言いたげに唸った。
「すいません。うちの子、気まぐれで。今は機嫌が悪いみたいです」
そんなことないのを知っていながら、ルーベルトはその場を取り繕う。角が立たないようにした。
「シャーッ!!」
それに合わせて、ボクも不機嫌オーラを出す。
「そんなこと言って、お前達がやらせているのではないのか?」
連れの1人がそんなことを言った。アルバート達を疑う。
(ブブー。ハズレです)
ボクは心の中で答えた。そっちにもシャーッと威嚇する。
周りがそんなボク達を遠巻きに見ていた。
ちょっと目立ってしまっている。
「何か揉めているのかい?」
暢気な声がその場に響いた。ロイドがやってくる。
「いいえ、先生」
ルーベルトは首を横に振った。
「ノワールが珍しくご機嫌斜めで、威嚇しまくっているだけです」
言い訳する。
「そうなのかい?」
ロイドはボクに尋ねた。
「にゃ」
ボクはそれに答える。どうとでも取れる返事をした。
「いつもとあまり変わらないように見えるけど?」
ロイドは笑う。
ボクに手を伸ばしてきた。その手を黙って受け入れる。触らせてあげた。
ロイドの手は優しく頭を撫でる。
「私には威嚇しないんだね。いい子だ」
ロイドは満足な顔をした。
「君たちが嫌われるようなことをしたんじゃないのか?」
そう言って、上級生達を見る。
「私達は何も……」
もう1人の連れが否定した。何もしていないのに、疑われるのは不本意なのだろう。
ボクはそんな彼らにそっぽを向いた。
ロイドはふっと笑う。ちょっと面白がっていた。
ボクはそんなロイドをじろりと睨む。
ロイドは優しい笑みを浮かべた。
「そんなことより、急がないと課外活動が始まるよ。いいのかい?」
上級生達を見る。
見学する1年生はいつ来てもいいが、活動を見せる側の上級生は活動時間に遅れるわけにはいかなかった。
「行こう」
アルバートを呼び止めた彼が友達を促す。3人はそのまま立ち去った。
「なんか……。すいません」
アルバートは礼を言う。ロイドは助けてくれたのだと思った。
「いや、いいんだよ」
ロイドはボクを見る。
「ノワールが触らせてくれたから、私としては満足だ」
そう言って、ボクの頭を撫でた。
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