4-6 教官・ロイド
ルーベルトの言葉に、ボクは首を傾げた。
「試すって何を?」
意味がわからない。
「あー……」
ルーベルトは少なからず気まずい顔をした。ロイド先生とのやりとりを話してくれる。
「はっ?」
思わず、アルバートを見た。
そんな大事な話を何で今頃言うんだと思う。そういう話は最初に話すべきだろう。
そう言いたいのはアルバートにも伝わっているようだ。アルバートはすっと目を逸らす。
「そういう大事な話を何故、先にしないの!?」
アルバートに詰め寄った。
足を開き、両手を腰に当てて仁王立ちする。普通に腹が立った。
「その話を聞いていたら、ドアを開けなかった」
文句を言う。
ルーベルトが語ったのは予想外の内容だった。いろいろバレていて、びっくりする。
しかも、引っかかることを言われていた。
目がいいなんて、いろいろ見えていることを疑われているとしか思えない。
「どう考えても試された」
チッと舌打ちした。
教官室のドアには何の変哲もなかった。少なくとも、ボク以外にはそう見えるだろう。ドアにはただ魔法陣が張り付けてあるだけだ。見える人間でなければ、簡単には開けられない仕組みになっている。
それを見た時にもっと慎重にするべきだった。
だが、カードを渡されて許可を貰っていたので油断してしてしまった。
「はあ……」
ため息を一つ、吐く。
空気が重苦しくなった。アルバートもルーベルトも気まずそうな顔をしている。
しかしこの時間を勿体ないと思った。
今は反省するより、やることがある。
「こうなったら、こちらも何か握っておくしかない」
ボクの言葉にアルバートとルーベルトは驚いた顔をした。何を言っているんだという目がこちらを見る。
「ロイド先生のこと、探ろう」
ボクは提案した。
「向こうにだけこちらの手の内を知られているのは不利だから、こちらも何か掴んでおこうよ」
アルバート達を促す。3人で部屋の中を漁った。
部屋の中はカオスだった。魔法道具が雑多に置いてある。いろいろ気になるが、今はそんな場合ではないだろう。
教官であるロイドのことをボク達はあまり知らない。辺境の方にある男爵家の三男で、食い詰めるところを魔力とセンスを買われて教員になったとしか聞いていなかった。
とりあえず、デスクやその周りにある書類を漁ることにする。手分けして、書類の山に目を通した。
ロイドは整理整頓が出来ないタイプなのか、やたら書類を山積みにしている。何かありそうなものを探すのはなかなかハードルが高いようだ。
しかし、机の上を漁っていて別の事に気づく。
話を聞く限り、ロイドは裕福とは思えない。辺境地の男爵家なら、おそらく、ぎりぎり貴族っていう財力のはずた。その三男なら、実家からの援助はほぼ望めない。しかし、机の上にある文房具やその他は一級品だ。高い物なのが一目でわかる。
違和感を覚えた。
ちなみに、ボクは気になったが、アルバートだけでなくルーベルトもそんなことは気にしない。2人にとって、その辺に置いてあるものはいつも当たり前に使っているものだ。その値段なんて、知らないだろう。
ボクは公爵家で与えられる文房具類がやたら高そうなのが気になって、執事に確認したから知っていた。
「ねえ、ルーベルト。この学園の教官ってお給料、いいの?」
とても下世話な事を聞く。
「そうだな。普通よりは多少高いだろうが、それなりだと聞いている」
ルーベルトは答えた。
(知っているんだ)
心の中で驚く。
聞いておいて何だが、正直、返答が返ってくるとは思わなかった。
(ルーベルトって妙に雑学的なことを知っているんだよね)
不思議に思うが、今はそれを追求している場合ではない。
「じゃあ、この高すぎる文房具って不自然じゃない?」
ルーベルトに置いてあるペンを手にとって、見せた。
「それはそんなに高いのか?」
アルバートは不思議な顔をする。
生まれついてのお坊ちゃんは物の値段をあまり知らないらしい。たぶん、気にした事なんてないのだろう。
(このぼんぼんめっ)
心の中でこっそり毒づいた。
「高いよ。たぶん、月給の半分くらい飛ぶよ」
ボクは答える。もっともそれは前世の感覚でだけど。この世界の教官の給料の基準は実はよく知らない。同じくらいだと勝手に推測した。
「そうなのか」
アルバートは感心する。
「私も値段は知りませんが、確かに、教官が持つには高すぎるかもしれませんね」
ルーベルトは同意してくれた。
「この資金源ってどこなんだろう?」
ペンをふりながら、首を傾げる。
「魔法アイテムの売り上げですよ」
答える声があった。
はっとドアの方を見る。
音もなく、ドアは開いていた。ロイドが部屋に入ってくる。
「漁っていいと言いましたが、本当に漁っていたんですね」
ロイドはボクたちを見て、面白そうに笑った。
ぞぞぞっ。
背筋を何かが駆け上がる。
(やっぱり、嫌い)
本能的にそう思った。
「にゃあ」
ボクは一声、鳴く。
がっつりしゃべっていたのを見られていたが、それでも誤魔化そうとした。しゃべれないですよって顔をする。
(だって、猫だし)
心の中で言い訳した。
「今さらしゃべれないふりをされても、さすがに誤魔化されませんよ」
ロイドは苦笑する。
(まあ、無理だよね)
ボクは心の中で呟いた。誤魔化すことが出来ると、本気で思った訳ではない。
「教官って副職も可なの?」
ボクは聞いた。バレているので、がんがん話す。
魔法アイテムの件を追求しようと思った。
「知的財産権は認められているのですよ」
ロイドは答える。真っ直ぐにボクを見た。にこにこ笑っていて、それが逆に不気味だ。
「何で試すようなことをするの?」
ボクはずばり聞く。
「普通に聞いても、答えてくれないでしょう?」
ロイドは逆に聞いた。
「答える理由がない」
ボクははっきり言う。
「そんなに嫌わないでください」
ロイドは切ない顔をした。
「でも、嫌い」
ボクはつんとそっぽを向く。
「私はノワールが大好きですよ。仲良くしたいと思っています」
ロイドはにっこりと笑った。
「その笑顔が不気味」
ボクは引く。
「酷いな」
言葉とは裏腹にロイドはとても嬉しそうな顔をした。
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