4-4 貢ぎ物 2
ロイドは目をきらきらさせた。
「使い魔が人間の魔法を使うなんて興味深いね。どうやって教えたんだい?」
アルバートに問う。
アルバートはちらりとルーベルトを見た。
ルーベルトはロイドを味方にした方がいいと言ったが、アルバートは決断出来ない。
敵ではないと言われても、それを信用する根拠は何もなかった。
それならノワールの猫の勘の方が信じられる。
だが、確かにロイドが味方になってくれるなら心強いだろう。
数日授業を受けただけだが、アルバートは各教官の実力はだいたい把握していた。教官とひとくくりするには、レベルに差がかなりある。本当に優秀な人から、何故この人が?と思う人も中にはいた。
そしてロイドは優秀な方の人材だ。
「その前に、先生が敵ではないことを証明してください」
アルバートはずばっと言う。
敵でないことがはっきりしない限り、ノワールの秘密は話せない。
そんなアルバートの意図はロイドにも伝わった。
「証明しろと言われても難しいね」
ロイドは困った顔をする。少し考えた。
「そうだね。実は私、大の猫好きなんだ。だから、猫を悲しませるような事はしない。嫌われたくないからね。もっとも、私はこんなに猫を好きなのに、何故か猫の方にはあまり好かれないんだけど」
笑いながら答える。
どことなく食えない感じがした。
(猫に好かれないのはなんかわかるな)
アルバートは心の中で呟く。
ロイドが猫に好かれない理由は想像がついた。なんとも怪しく、警戒したくなる。
「信用、出来ないかい?」
ロイドは聞いた。
穏やかな笑みをたたえている。それは余裕の現われに見えた。
「……」
アルバートは困る。言葉に詰まった。
「この話、続きは放課後にしようか?」
不意にロイドは言う。ちらりと時計を見た。休み時間は残り5分になっている。もう行かないと、授業に遅れる。
「思ったより時間を取ってしまって悪かったね」
謝罪した。
「放課後、改めて話をしよう。今度は、出来ればノワールも連れてきてくれ。本人……いや、本猫とちゃんと話をしたい」
真っ直ぐにアルバートとルーベルトを見る。
パチン。
指を鳴らした。
手元にカードが現われる。
「お茶会の招待状だよ。このカードがあれば、私の教官室に自由に入れる。勝手に入って、部屋の中を探っても構わないよ。信用できるまで、好きなだけ疑ってくれ」
そんなことを言った。
アルバートはカードを受け取るのを少し躊躇う。
その隙にルーベルトがそれを受け取った。
「凄い忠誠心だね」
ロイドは感心する。
「心配しなくても、そのカードに仕掛けなんて何もないから大丈夫だよ」
微笑んだ。
ルーベルトがトラップを警戒し、アルバートの代わりに手を出した事に気づいている。
そんなロイドを油断できない相手だと、ルーベルトは感じた。
二人が教室に戻ったのは、そろそろ休み時間が終わる頃だ。
教室に入ると、メリッサがノワールの隣からさっといなくなるのが見えた。
何かあったのかと一瞬、アルバートは心配する。
だが、ノワールに変った様子は見えなかった。
「ただいま。大人しくしていたか?」
ノワールの頭を撫でながら問う。
ノワールはこちらを見上げた。
「にゃあ」
一言、鳴く。
教室の中で、ノワールは人の言葉を話さない。全てにゃあで済ましていた。
いろいろ聞かれるのが面倒なようで、にゃあと鳴いて全て誤魔化す。すると周りは勝手に人の言葉は話せないのだと誤解した。
その誤解を解くつもりはアルバートにもノワール本猫にもない。
ネコ語しか話さなくても、それなりにノワールは受け入れられていた。
その証拠に、少し席を離れただけなのに、戻ってきたらノワールの前にはお菓子が置いてある。誰かに貢がれたらしい。
菓子を与えておけばノワールの機嫌がいいことに気づいた誰かが、最初に菓子を与えて以来、ノワールへの餌付けはブームになっていた。誰かしらが常に菓子を置いていく。
その状況に慣れたノワールはいちいち気にしなくなった。
当たり前のように、ぱくぱく食べる。
その姿が可愛いと、さらに菓子を与える人間は増えた。
(おもちゃを与えたくらいでは、気に入ってもらえないかもしれませんよ、先生)
アルバートは苦笑する。
ノワールは不思議そうにアルバートを見た。持っている袋から出ているねこじゃらしに目を止める。
ノワールにロイドのことをどう話そうかと、アルバートは考えた。
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