4-1 学園生活
街に出た翌日から授業は始まった。
教室は大学の講習室みたいになっている。後ろに行くほど高くなり、段差がある。どの席からも前がよく見えるようになっていた。
アルバートに抱っこされて、教室に入る。
その瞬間、ざわっとした。
どこに行っても見られるので、感覚が麻痺してきた。
獣人はとても珍しいらしい。
アルバートに言われて極力目立たないようにしようと思ったが、無理だとそうそうに諦めた。
何もしなくても目立ってしまう。
席は決まっていないので、アルバートとルーベルトは空いている席に適当に座った。二人の間にボクが座る。普通に座ると座面が低くて埋もれてしまうので、最初からクッションを持ってきた。クッションの上に座るとちょうどいい高さになる。
視線は相変わらずあちこちから突き刺さってくるが、まるっと無視した。気にしても仕方ないと開き直る。
(このプラチナブロンドの髪も目立つんだよな)
指で髪をくるくる弄ったら、きゃあと歓声が上がった。
仕草が可愛らしかったらしい。
全体的に白っぽいので、ボクは妙に目立つ。オッドアイの瞳も人目を引いた。
せめて授業中は大人しくしていようと決める。
授業が始まる前から、すでにちょっとうんざりしている。
(放っておいて欲しい)
しみじみと思った。
程なく担当教官が現われて、授業が始まる。
教官は中年の男性だった。魔力を持っているので貴族だろう。
だが偉ぶった感じのない人だった。勉強するのが好きな大人しそうなタイプに見える。
(こういう人が実はサイコパスでしたというのはありがちな話だけれど、そんなテンプレ展開はナシでお願いしたい)
心からそう思う。
授業の内容は面白かった。現代日本の感覚だと、中学生レベルの科学という感じがする。
魔法はファンタジーだが、意外と理論は科学的だ。
そのギャップがボク的には面白い。
でもそれは前世での知識がベースにあるからのようだ。
理解できないという顔をしている生徒も少なからずいる。
(この国の教育レベルがわからないから、どこまではOKでどこからはアウトなのか、そのボーダーがわからない)
ちょっと困った。
とりあえず、発言や質問はしない方がいいだろう。余計な事を言わなければ、余計な騒動に巻き込まれる事はない……と信じたい。
(とりあえず、全てにゃあにゃあ言って乗り切ろう。可愛ければ、許される気がする)
そんなことを考えていたら、教官と目が合った。
ぞくぞくっと何かが背筋を走る。
それは本能的な何かだった。
思わず、隣にいたアルバートの服を掴む。
「?」
不思議そうにアルバートはこちらを見た。
何も言わず、ボクはアルバートの腕を取る。その下から顔を潜り込ませた。そのままよじよじと膝の上に登る。膝の上に抱っこして貰った。
アルバートに包み込まれる感じが安心する。
「……」
アルバートは何も言わなかった。だだ黙って、抱きしめてくれる。不安な気持ちが伝わったのかもしれない。
一連のボクの行動を見た後ろの方の席の女の子達が可愛さに悶えていた。だが、気にしない。
教官を警戒しつつ、授業そのものは面白かったので集中した。
授業と授業の間には休み時間がある。
そういうシステムは世界が変っても大差ないらしい。
休み時間になると、アルバートとルーベルトは主に女の子達に囲まれた。
(面倒くさい)
ボクはそう思ったが、アルバートたちも同意見らしい。だが、逃げるタイミングを失った。正確な言い方をすれば、女の子達の方が一枚上手だった。
さっと逃げ道を塞ぎ、あっという間に取り囲む。
(こういう時の女の子達の連携、凄い。普通に怖い)
女という生き物は肉体的にはともかく、精神的にはかなりタフだ。このくらいの年齢だと、男の子より女の子の方が大人で強い。
「何か?」
アルバートは聞いた。冷たい言い方をしないのは賢い選択だと思う。こういう場合、女は敵に回さない方がいい。
徒党を組むと女は厄介だ。
「自己紹介がまだでしたので」
リーダーっぽい女の子が口を開く。いかにも気が強そうな顔立ちをしていた。だがこういう子の方が実は懐柔しやすいことを知っている。わりと単純で、わかりやすい性格をしている場合が多い。
(本当に厄介なのは、大人しそうなふりをして前に出てこないのに、陰ではいろいろやっているタイプ)
ざっと見回して、あたりをつけた。何人か、気をつけておこうリストに入れる。
早く休み時間が終わらないかなと考えている間に、女の子達は名乗り終わったようだ。
関係ないと思っていたボクは一人の名前も聞いていない。
アルバートから、生徒達とあまり関わるなと言われていた。
自分でもそれがいいと思う。うっかり余計なことを口走る自信があった。
「うにゃ」
欠伸が洩れる。なんだか眠くなってきた。ボクはアルバートの腕の中から抜け出し、クッションの上に座る。次の授業は別の教官なので、きっと怖くないだろう。
腕を机の上に置いて、その上に顔を伏せた。次の授業までまだ少し時間がある。仮眠を取ろうと思った。
そんな自分の行動をじっと見られているのには気づいていたが、無視する。
「うちの獣人がおねむなので、もういいかな?」
ボクのせいにして、ルーベルトは女の子達を追い払おうとした。さすがルーベルト、誰も傷つけずに場を治めるのが上手い。
(いいよ~。どんどん使って。可愛い猫は無双だから)
心の中で笑った。
「ええ、そうですね。お邪魔したら悪いですわね」
そんなこと言って、女の子達はあっさり引いてくれる。
(思ったより、いい子かも)
印象は悪くなかった。気が向いたら、遊んであげてもいいと思う。だがそれは気が向いたらで、基本的には関わるつもりはなかった。
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