閑話: 休日、ときどき猫。
***本日は猫の日なので、本編から離れて猫の日用の話です。***
変身魔法で人型になれるようになって以来、平日はほぼ人型で獣人として暮らしている。
実は変身するのも解いたりするのも慣れたのでもう自由自在なのだが、頻繁に変身を繰り返すと着替え問題が発生する。
人から猫に戻る時は問題ないが、猫から人になる時は困る。当然ながら裸だ。
だだの猫なら裸でも気にならないかもしれないが、前世で人間だったボクには羞恥心というものがある。
裸で構内をうろつくつもりはなかった。
それに、食事の問題もある。
人型の時は人間のご飯を1人前くれるが、猫の時は人間のご飯は食べさせて貰えない。
猫には調味料たっぷりの人間の食事は良くない。この世界の人もそれは知っているようで、猫の時はだだの茹でた野菜とかボイルした肉とか魚とか、とりあえず味付けなしのものが出てくる。
それが大変、不満だ。
身体のためだというのはよくわかっている。だが、美味しいものを知っているからこそ味気ない食事は苦痛だ。
美味しいものは人を幸せにし、そうでないものは人を不幸にするのだと思い知る。……まあ、猫ですけどね。
そんなわけで、なんだかんだいって人と同じ生活を送っているが、それはそれで面倒なこともある。
何処にいても構い倒された。
ノワールは可愛い。はっきりいってとんでもないレベルの美少年だ。
そのため、男女問わずノワールには優しい。そして構いたがった。
下手に言葉が通じるから、無視も出来ない。
悪意はないから、素っ気なくするのも心苦しかった。
猫だからツンデレもありだとわかっているが、空気が読める日本人気質がついつい愛想をよくしてしまう。
無意識に気を遣っていた。
だから週末にはくたくただ。
休日は部屋から出るのを止めて、猫で過ごす。
人型になるのはご飯の時だけだ。
それ以外の時間は猫として、気ままに過ごす。
触られるのが嫌なときはシャーッと遠慮なく威嚇した。
猫というのは気まぐれでも、ツンデレでも、オレ様でも、何でも許される。
『だって、猫だから』――は万能な免罪符だ。
ソファの上で丸くなって寝ていると、構って欲しそうにアルバートがこちらを見る。ちらちら目線を送ってきた。
(嫌だ。面倒くさい)
休みの日くらいゆっくり寝かせてくれと、親父くさいことを考える。
(何も見えていない。気づいていない)
スルーした。
しかし、アルバートは諦めない。
しれっとソファのところにやって来た。隣に座る。
ちらりと一瞬だけ、ボクはそちらを見た。
だが、無視すると決めている。その気持ちは変わりなかった。
アルバートはジリジリと距離を詰める。
そっと手を伸ばした。
「シャーッ」
威嚇する。
猫になって思うが、猫の飼い主ってみんなドMだ。シャーッとされることがわかっていて、ちょっかいを出すあたり痛いのが好きなのだとしか思えない。
「ノワール」
アルバートは呼びかけてきた。
(聞こえていないです)
ボクは無視する。
「猫のままでも、言葉は理解しているんだろう?」
気にせず、アルバートは続けた。
「ちょっとだけでいいから、撫でさせて」
訴えてくる。
ちらりとその顔を見ると、いつになく情けない顔をしていた。
(仕方ないなぁ)
心の中で呟く。
(ほらっ)
ごろっとお腹を見せてあげた。
「おおっ」
アルバートは歓声を上げる。そっと手を伸ばした。優しく腹を撫でる。
それは気持ちが良かった。
なんだか眠くなる。
うとうとしていた、急にお腹に重いものを感じた。
見ると、アルバートがお腹に顔を埋めている。くんくん匂いを嗅いでいた。
(この変態!!)
当然、猫パンチをお見舞いする。
若干、爪も出た。
アルバートの頬が少し傷つく。
「痛いよ」
そう言いながら、アルバートはどこか嬉しそうだ。
少なからず、引く。
(本気のMなんじゃない?)
若干、アルバートと距離を置きたくなった。
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