2-9 一週間後


 あっという間に一週間が過ぎた。

 その間、猫であるボクはいろんなことを学ぶ。

 最初に、獣人として生活すると聞いた時には驚いた。

 どうしてそんなことをするのか、意味がわからない。

 獣人とはなんなのかは説明された。獣の特徴を持つ人間に近い生き物で、変化して動物そのものにもなれると教えられる。

 それはほとんど今の自分と同じだと、言われなくても気づいた。

 猫より獣人の方が自分にもメリットがあると言われて、興味を持つ。

 ルーベルトとアルバートが魔法学園に入学することもその時に聞いた。学園は王都にあり全寮制で、ボクも一緒に学園で生活するらしい。出発は2週間後だそうだ。

 使い魔や従者は学園への同行を許されている。長い時間、主と離れることが出来ないから当然の措置だ。だが、使い魔と従者では大きく扱いが違うらしい。

 使い魔はペットとして扱われる。しかし従者の扱いは人間と同等だ。分類的に、獣人は動物ではなく人間側に属するらしい。正確には亜人と呼ばれるそうだ。

 そのあたり、前世の知識と符合する。なんとなく獣人の立ち位置が掴めた。だがきっと差別や迫害はあるだろう。

 そして獣人は主が希望すれば魔法などの授業を一緒に受けられるそうだ。

 自分に都合のいい部分とは、このことを指すらしい。魔法を習いたいなら獣人でいろということだ。

 嘘をつくのは好きではない。嘘はいつかばれて、悪い事態を引き起こすからだ。しかし猫であることにそこまで拘りはない。意識は人間の時のままだ。

 少し迷ったが、その提案をボクは飲む。

 入学するまでに、日常生活に支障をきたさないように常識をいろいろとたたき込まれることになった。

 それには大いに前世の記憶が役に立つ。人間としてのベースはあるので、周りが驚くスピードでいろんなことを吸収する。

 ついでだからと、おじいさんは簡単な魔法をいくつか教えてくれた。初級用の魔法書も貸してくれる。

 それは楽しくて、面白半分にいろいろ試し、一通りの魔法が使えるようになった。


 そして勉強以外でも、いろんなことを知る。


 おじいさんの名前は『ルイ』で、公爵の祖父の異母弟らしい。妾腹で母親の身分が低いので、家系図とかには載らない存在のようだ。貴族の家もいろいろと闇が深い。

 普通なら、妾腹の子供は成人すると家を出されるそうだ。しかしルイは魔力が強く、家を出て自由に生きることが許されなかった。その魔力をロイエンタール家のために使うように強要される。使用人として家に残された。ロイエンタール家のために今も昔も尽くしている。

 公爵はこの家の主だが、二人の息子には甘い。特にルーベルトには弱かった。この家で実は一番強いのはルーベルトだと思う。例えるなら、お父さんも子供もお母さんには逆らえないのに似ていた。取り入るなら、ルーベルトにするのがいいらしい。だがルーベルトはそんなこちらの思惑も読んでいそうだ。なんだか怖くて、あまり近づいていない。

 アルバートは公爵家の嫡男だ。跡継ぎであることはすでに決まっているらしい。複雑な家庭の事情はメイド達が詳しく教えてくれた。

 にっこり笑って甘えると、彼女たちはたいていのことを話してくれる。

 可愛いというのはなんともお得だ。

 情報収集には困らない。ただし、彼女たちの知る真実が事実とは限らないので、注意は必要だろう。

 微妙な関係のはずなのに、アルバートとルーベルトは仲が良い。

 二人が仲良しなので、公爵家に漂う雰囲気は穏やかで温かだ。けっこう居心地がいい。

 そんなことを考えていたら、アルバートに呼ばれた。


「はい、あーん」


 促されるまま口を開けると、カットしたフルーツを口の中に入れられる。

 甘い味と香りが口の中に広がった。


(桃だ)


 この世界にも桃があるのだと、ちょっと嬉しくなる。


「美味しい」


 にこっと笑うと、もっと食べさせてくれた。

 この一週間、アルバートには溺愛されている。文字通り、猫っかわいがり状態だ。ひたすら甘やかされる。

 お膝抱っこはマストだし、何かというと餌付けしたがる。

 嬉しいが、ちょっと重い。

 今ももちろん、ボクがいるのはアルバートの膝の上だ。午前の授業が終わり、お茶の時間で少し休憩している。


(こんなに食べて太ったらどうしよう?)


 前世では常にダイエットを意識していた身としては、戦々恐々した。だが、それはいらぬ心配だと気づく。この身体は燃費が悪いらしい。食べてたものは即、消化してエネルギーに変った。身体を維持することに使われている。

 それに気づいてからは、遠慮無く食べることにした。そしてそんなボクにアルバートは餌付けしたがる。


(イケメンにあーんされるのは乙女の夢だけどさ。ルーベルトから黒いオーラが出ているのは気のせいですか? 嫌われて追い出されたりしませんか?)


 大いに不安を覚える。

 ルーベルトなら策略を巡らせ、そのくらいのことをやりそうだ。

 勉強時間はアルバートとルーベルトの二人と一緒だ。さすがに二人と同じ内容を学ぶわけではないが、二人の学習レベルがどれくらいはわかる。

 二人ともとても優秀だ。秀才と言っていいと思う。

 特にルーベルトは学習能力が半端なく高い。頭の回転も良く、策略を張り巡らせるのは得意そうだ。絶対、敵に回したくない。

 だが、アルバートがボクに構いまくるので、面白くないのではないかと思う。今までルーベルト一人に向けられていた愛情が、今は半分ボクに向けられていた。







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