2-5 猫は猫

 用意された服に自分で手を伸ばしそれを着た後、鏡を見たわたし……改め、ボクはとても驚いた。


(美少年っぷりが半端ない)


 思わず、鏡を見入ってしまった。


「可愛い」


 心の声が漏れる。


(ちょっとルーベルトに似ているけど、これはあれかな? 人間を思い浮かべた時に浮かんだのがルーベルトだからかな)


 イメージが大事なら、思い浮かべたものが多少影響するのかもしれないと思った。そんなことを考えながら、鏡の前でくるりと回る。自分の姿を確認した。耳以外、猫っぽいところは残っていない。


(逆に、なんで耳だけ残ったんだろう? 耳が残るならシッポも残るんじゃない?)


 そんなことを考えていると、名前を呼ばれて抱っこされた。そのままアルバートに運ばれる。


「どこに行くの?」


 縋るように抱きつきながら、問いかけた。

 アルバートにくっついていると、安心する。自分とアルバートが繋がっていることを確かに感じた。

 魂の契約というのは不思議なものだなと思う。

 アルバートが自分にとって特別だとわかる。名前を呼ばれるだけでドキッとした。


「父上達が話を聞くために待っている」


 アルバートは質問に答える。向かっている場所を教えた。


「ボク、どうなるの?」


 質問する。歓迎されていないのは察せられた。突然人間に化けたら、煙たがられて当然だろう。


「この姿が本物なのか?」


 それには答えず、アルバートは歩きながら聞いた。


「違うよ。猫が本物」


 ボクは答える。


「じゃあ何故、人の姿に?」


 アルバートは質問を続けた。部屋に着くまで待てないらしい。父に説明する前に知っておきたいのかもしれない。


「変身魔法だよ。猫の姿だとしゃべれないから、人になってみた。話が出来ないと、意思の疎通が難しいでしょう? 人の姿になれば、おしゃべり出来る」


 可愛らしい姿に相応しい口調で答える。無邪気な目でアルバートを見た。


(怪しくないよ~。普通じゃないけど、普通だよ。ちょっと前世が人間でその記憶を持っているだけだよ~)


 心の中で訴える。もちろん、そんなことを言えるわけはない。


「それはまあ、そうだね」


 アルバートは頷いた。納得する。


(意外と人がいいな)


 あっさりと信じてもらえて、逆に拍子抜けした。


(そこはもっと疑わないと。ボクが悪い人だったら、どうするんだ?)


 心配になる。

 そんなことを話していると、部屋に着いた。アルバートはノックをしてから部屋に入る。

 部屋には公爵とルーベルトとおじいさんがいた。ボクを連れてきた責任を問われているのかもしれない。


(悪いことをしたな)


 そう思った。

 おじいさんはボクを見てびっくりしている。

 公爵はボクが使い魔の白猫であることを説明し、おじいさんを問い詰めた。連れてきたのは猫ではないのかと。

 それにおじいさんは猫だと答える。


「そうだろう?」


 ボクに聞いた。


「にゃあ」


 猫っぽく、ボクは答える。


「では、その姿は何だ?」


 公爵の目はボクを見た。


「変身魔法」


 アルバートに聞かれた時と同じように答える。


「……」


 部屋の中に微妙な空気が満ちた。


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