CASE 4-end
葬儀会場に集まる黒い服を着た人達に混じって、ジンとイツキは残された家族を眺めていた。
会場の前には
参列者にまさか本人がいるとは思ってもいないだろうな、とイツキは弔問客に頭を下げる三人を見る。
瞼を真っ赤に腫らした明日菜。
悲しみを堪えている新は、側から見たら不貞腐れているようだが、泣くまいと歯を食い縛る顎が時折り震えているのが分かる。
喪主として務めるのは、葉子。
そして祭壇には、笑顔を見せるイツキの写真がある。
「これでよかったのか? って聞くのも何だな。これがお前の願いなのだから」
ジンが祭壇の写真を見ながらイツキに小さく笑いかける。
「あ! もしかして……今気づいたんですけど、イツキって名前は五木田の……五木から?!」
「なかなか面白い冗談だろう?」
にやりと笑ういつものジンに思わず、あははと力なくお追唱の笑いで応えてしまう自分が恨めしいが、そんなんじゃいかんと頭を振って反論なぞ試みたりして。
「い、いやぁ……あんまりって言うか、ソレ駄洒落みたいなモンですよね」
……?!!!
足を思い切り踏まれその痛さに悶絶するも、姿を現しているんだかどうかも誰から見られているかもわからないこの状況では声なんて出すわけにも痛さに屈み込むわけにもいかないよね? だよね? と涙目でジンを見れば神妙なる顔つきで前を向いている。
い、いつかポンコツの汚名を返上したあかつきには……見ておれよ。
その時ジンが唇の端で笑ったのを、イツキは見逃さなかった。
……あの日。
運命を分けることになったあの日。
イツキとジンが時を遡ってしたことは、世界の『
買い物に行くため、マンションのエントランスまで降りて来た時、葉子の
何だか嫌な予感と共に電話に出てみれば、警察からだった。
三人がタクシーを呼び、慌てて駆けつけた病院に覚はいた。
物言わぬ姿で。
事故だった。
昼食を摂るために会社から出た先で、脇見運転の車に接触。
おそらくは、即死。
「そういえば、お
まあ、つまるところ自分の上司にもなるわけだし、そこんところハッキリさせたいというかなんというか。
ジンは形の良い鼻でふふん、と笑う。
神と悪魔は違うモノだと、
悪魔は、そんなに恐ろしいものか?
神には願いが届かないこともあるが、悪魔とは契約を結べば必ず願いが叶うのに、悪魔を厭うのは何故だ?
それは契約によって自分が失くすものを惜しんだ
悪魔は
何故なら悪魔は、その本人に、すべてを負わせるからな。
そうでないのは紛いものだ。
また一方で
それも自分ではなく他人を、な。
果たして願う相手は、それは神か?
神には自らを捧げて祈ることもあるって?
神は何も望まないと言っているのに、自らを捧げて何になるんだ? もしもそれで願いが叶っているなら、対価を払ったのだから相手は神ではないのではないか?
……違いなんてないんだよ。
ざっくり言えば、お前らが悪魔と呼ぶモノは
つまりこの場合『願いを叶えるという契約』では対価が必要な旨説明し、了承を得て仕事をするのが我々というわけだな。
まあ、我々は対価を貰うのだから、そりゃあ請けた仕事はきっちりするってことだ。
葬儀は、粛々と進む。
席を離れたジンとイツキは姿を消し、今は天井から下を眺めていた。
「だか、今回の対価がお前とあっては、あまりにポンコツで安すぎる気がしないでもないが。これからも『出来損ないの弟子で下僕な』助手として一人前になるまで、きっちりと仕事を頑張ってもらわなくてはな」
話の方向が自分に向いてきたイツキは、その向きを変えようと間の抜けた声を上げる。
「やあ、だけどあれですね?
小さな白い花に囲まれて胸の上で手を組んでる自分をこうして見下ろして見ると、なかなか良い男ですよね」
ウチの奥さん、この先また、自分くらい良い男と出会えるかなぁ。
じゃあ、見てみるか?
やっやめておきます…。
『三人が、どうか幸せでありますように』
イツキは、そう呟いて白い光と共にジンと消えた。
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