CASE 3-5



 新が探すのは、男が大切にする者。

 新が奪うのは、男にあの慈しむ眼差しを向けられる者だった。


 春の夜は優しい。

 窓から入る風も、どこか甘い。

 男を見かけたあの日から半年経った。

 高校生になって何かが変わると思っていたが結局、何も変わらなかった。

 相変わらずあの道は歩けないし、考えるだけで恐ろしい。

 それも、もう終わりにするんだ。

 突然、背中に視線を感じた。

 に見られている。

 ……誰か?

 そんなの決まってる。

 机に伏していた顔を上げると身体ごと振り返り、当たり前のようにそこにある顔に向かって言った。


「……見つけたよ。ようやく見つけたんだ。あの男の子供。想定していたより、親しくなってしまったのは計算外だったけど……それを知って、来てくれたんだろ? 僕がこれからすることを、助けてくれる約束だったよね? だから、また僕の前に現れた。……でしょ?」


 ジンとイツキが、いつからそこに居るのかなど聞くこともなく、振り返った新はごく自然な様子で二人に尋ねたのだった。

 そう。あの白い空間で、新がジンとイツキに向かって言った『男がいちばん大事にしているものを奪う』とは……。


「なるほど、考えたな。いや、ずっとそう思っていたんだよな。んだと、な」


 二人に向かって不遜な笑みを浮かべた新に、ジンは頷いて見せた。「約束だ。助けとなろう」


 あれ?

 イツキはまた自分が泣いていることに気づいた。なぜ泣くのかなんて、この涙が誰の為のものかなんて、分からない。分からなくて良いと思う。

 ただ、泣きたかった。

 イツキに出来るのは、ただそれだけなのだから。


「辛気臭いその顔、どうにかしろ」


 冷たくジンに言われ、顔を擦る。

 新はイツキをちらと見て視線を逸らした。


「……助けてほしいことを言うよ。あのね」


 話し終えた新に、ジンが「それだけか?」と確認をとる。

 新は、頷き言った。


「あの日、誓ったんだ。この手で必ず……って。だから」


「いまさら……今更こんなことを言うのかって思うかもしれないけど、考え直せないかな? 新くんには、残されている家族も居るよね?」ひとり、じゃないでしょ?


 頑なな表情で首を横に振られる。

 イツキの言葉は、イツキのそんな言葉では、新を引き止めることは出来ないようだった。


「あの男が憎いのは、僕だけじゃない。家族みんな、だ! だけど、あの男に罰を与えることが出来るのはなんだ」


「……そう」


 イツキには、もう掛ける言葉が無かった。

 どんな言葉も届かない向こうに、新がいるのだと知らされる。


「いつでも良い。おまえの都合タイミングでことを運べば良い。が来たらいつでも現れてやる」


 ジンの言葉に新が見せたのは、紛うことなき安堵。

 イツキは知らない。

 新はこの夜、久しぶりに夢を見ることもなく深く眠ったことを。


 

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