CASE 3-4
「おめでとう。選ばれた気分は?」
ジンの開口一番の台詞に、新はまだ何が起きているのか飲み込めない様子で辺りを見回していた。
それもそのはず、あの男を駅近くで待ち伏せしていた新が今いるのは――。
「……なんっ、だコレ?」
どこまでも白くほのかに光を帯びる空間。
見渡す限り果てがあるのかどうかも分からない。
「何だろうな? 何だと思う?」
意地の悪い声がした方を振り返れば、どこかで見たような気がしないでもない黒いスーツを着た二人の人物がいる。
「……分かんないよ。何だよコレ。アンタ達がやったの? おめでとうって? 選ばれたってどういうこと?」
「やれやれ、疑問ばかりだな。聞くばかりでなく少しは自分の……。まあ、そうだな。考えようもないな。それにしても、もっと驚くと思ったんだが拍子抜けだ」
ジンが少し笑う。
イツキが目にしたその笑みは、あまりにらしくない顔だった。
「……どっかで会ったコトある?」
少年が小首を傾げて二人を見比べている。
ジンは片方の眉を上げると優雅な手つきで頭の先から下に向かって、自分の着ている服を身体に沿ってなぞって見せた。
果たして少年の目に映るジンは、どんな姿なのだろうとイツキは思う。誰かに似ているんだろうか。
面識のある無しを聞く少年の疑問には答えるつもりはないジンの、再び開いた口から出た言葉は次のようなものだった。
「自己紹介をさせて貰おう。ジンだ。これは助手のイツキ。おまえは?」
あれ? 『出来損ないの弟子で下僕な』という飾り言葉がないことにイツキは拍子抜けする。
何をしている自覚がないから、その飾り言葉が無いと落ち着かない自分も情け無いのだがその通りなのだから仕方がない。
「……
「復讐を望むんだろう? 天啓を受けたって言ったろう? それがこの答えだ。新、おまえを助けててやろう。おまえの望むままに」
「誰かを生き返らせることは出来る?」
躊躇することなく言った新の言葉は、
「出来ない。それは、おまえの本当の望みかもしれないが、死んだ者は甦らない。分かっているだろう? おまえが言うところの受けた天啓とやらとは、それと何の関係もないしな」
「ジン……さんって言ったよね? 誰なの? 何なの? ……神さま?」
「ハッ……? 神? そんなものじゃない」
「じゃあ、悪魔……とか?」
「短絡的だな。神でなければ悪魔か?」
ジンと新のやり取りに口を挟む余裕は無かった。睨み合いを続ける二人を見ているだけの蚊帳の外にいる自分に、イツキはどうしたら良いのか、どうすべきなのか分からない。
助手? そういえば自分は、これまで何かを手助けしたことが一度だってあるのだろうか?
今から何かを手助け出来るのだろうか?
見るからにこの自身だけで既に完結している
ふと視線を感じてその方を見ればジンと新が二人、心持ち心配そうな(正しくは新だけだが)顔でイツキを見ていた。
「考えるな、とは言わないが思っていることを全て口に出さなくても良いんだぞ」
「え? あれ? 口に出てました? ど、どの辺から?」
「全部……ってか、そっちだってまだ子供だろ? まあ、凡そ僕とおんなじくらい? か、少し年下? だったら思うように手助け出来ないのも仕方ないと思うけど」
ええー? こ、子供? 同じくらいって。年下って。
しかも、慰められてるし……。
ぱくぱくと口を開け閉めするイツキは、その時初めて言い返す言葉が見つからないというものを身をもって経験したのである。
しかしこの少年は、誰かを彷彿とさせるとイツキは思う。
そんなイツキに全てお見通しだと言うようにジンは少し笑って、新に向かってはこう言った。
「さて、この通り助手はまだまだ未熟でな。おまえの望みを叶えるのは私だ。願いを言え。助けてやる」
それを聞いて、はっとした顔をすぐに歪ませた新が泣くのではないかとイツキが思ったその時。
たいして間を置かず、きっぱりと言う新の声が聞こえた。
「母親を殺した男がいちばん大事にしているものを奪う。だから助けて欲しい」
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