CASE 3-3


 どうして今になって見かけたのか? 

 なぜ肩も触れそうな位置で擦れ違ったのだろう?


 あらた男を見かけて以来、それは自分に訪れたひとつの天啓だったのではないだろうか、と思う気持ちが日に日に強くなった。


 失った者のツラさを知らないから、あんな笑顔でいられるのだ。

 あの男は、同じ思いをしなければそんなことも分からないに違いない。

 何よりも、あの男にも罰を与える必要があるのではないか? 

 そうか、そうだ。

 だから新は男を見かけたのだ。



 新にはその権利があると思った。

 逆を返せば新にしかない権利だ、と。

 それに気づいた途端、頭の中の霧が晴れたような気がした。あの事故の日以来初めて、生きている実感がしたともいえる。

 だがしかし、アレが天啓とは今ひとつ言い切れないのも事実だ。

 偶然? まさか。

 ここでまたあの男に出会えれば、それこそこれは確実に天啓であると言えやしないか。


 新は、駅の近くで男を待ち伏せするようになった。



「……天啓ですか? 単なる偶然を天啓と呼ぶんですか? 狂ってる……この少年は、狂ってますよ」


 ポールフェンスに浅く腰掛け、凄惨な顔つきで行き交う人を眺める新をイツキは恐ろしいものを見る目で見ていた。


「人間が何をもって天啓と感じるのは勝手だからな。逆に言えば、こじつければ何だって天啓と言える」


「こうやって待ち伏せして、それで男を見つけたとしても、それはもう既に偶然でも天啓でもないことに気づいていないんですか?」


 ジンに聞くまでもなかった。

 新を見れば、露ほども気づいていないようだと分かる。


「さて、そろそろ助けてやろう」


 ジンが少年に向かって歩みを進める。

 出遅れ、慌ててその後に続きながらイツキは尋ねた。


「やめさせるんですよね?」


 行き交う人が、目に映ることのないジンのイツキの、身体を通り抜けて行く。


「何? めさせる? まさか。手伝うんだよ。この少年の復讐をな。見せてやると言っただろう? 自らの手で復讐を成し遂げた者をな」


 そんな。そりゃあ確かに聞きましたけど、とイツキが情け無い声を上げるのをジンは無視したまま、何も言わずいきなり少年の腕を掴んだその瞬間。


 ……あの真っ白で静謐な空間に、三人で立っていた。

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