CASE 2-end




 その少年の……侑斗の命を故意に奪ったとするその少年が死んだのは、京子が助けてよと言ったあの時間。殺したいと言い終えたその時。


 少年院での突然死だった。


 突然死とされた少年は病理解剖にかけられた。そう。侑斗と切り刻まれたのだ。

 京子が望んだように。

 またその解剖に関わった者以下、関係者には箝口令が敷かれることになった。

 その理由は少年の死因にある。


 ……溺死だったのだ。


 不可解なことに、口や鼻から水を吐き血が出るほど喉を掻きむしり、眼玉が飛び出すほど突然の苦しみに悶えのたうちまわる少年が居た部屋の中には当たり前にその肺を満たす水などは何処にもなかった。

 さらに不思議なことはまだ続く。その少年の肺を満たしていた水を分析したところ水道水の成分とは合致せず、ため池の主成分に類似点が多く見られたのだ。


 その死因はまるで呪いだと誰かが言ったとか言わないとか。


 ただ京子が知ったのは、が少年院で突然死したということだけだ。

 ジンとイツキ(大抵の時間は自分が生み出した幻覚だと思うことにしている。だって、どうやってもそれ以外の説明がつかないでしょ?)が、もしかしたら本当に願いを叶えてくれたのだろうかと眠りに落ちる前に一瞬だけ考えることもあるが、だからといって何か変わったのかと問われれば、何も変わらない。

 何をしたところで侑斗は、侑斗には、もう二度と会えないからだ。

 火傷跡の醜い顔に、片方の耳と尻尾がない仔犬はすっかり京子に懐き方時も離れない。

 実家の自分の部屋から外に出る気にはまだなれなかったが、そのうち仔犬を散歩に連れて行かなくてはと考えている。



「京子は本当のところ自分を責めて続けているんだ。嫌がる塾に行かせなければ、あんなことにはならなかったはずだってな」


 仔犬を抱きしめ窓の外をぼんやり見ている京子の傍に立ち、ジンはイツキに言った。

 京子にジンとイツキの姿は見えていない。


「まあ、確かに悪いのは京子ではないがな。この前にも言ったが原因と結果の連鎖の始まりは何処にあるんだろうと人は皆、考える。だがそれゆえに自分を憎んでしまう。犯人を憎み続けると同時に、自分が許せない」


 あの時こうしていたら、あの時、あの時。

 その苦しみは果てがない。

 だから呪いの成就は、京子に何をもたらしたのかイツキには分からない。それどころか呪いたいほど憎い相手が居なくなってしまったことで、それよりも、もっと自分を責める時間が増えたようにさえ思える。


「自分の手で成し遂げた訳じゃないからですか? 自分の手で相手を苦しめられたら、もう少し何かが違いますか?」


 イツキは分からない。

 その怒りをぶつけることが出来たら、そこにはまた何があるのだろう。

 

「そうか? ならば次に助けを乞う人間に会いに行こう。ちょうどいい。自分の手で復讐を成し遂げたいと思っている人間をひとり知っている」


 ジンはイツキの方を見ようともしない。

 イツキもまた、京子と同じ窓の外を見ている。


 白い光が、部屋に満ちた。

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