CASE 2-5
「……疲れているんですね」
ベッドの中で小さな仔犬と共に寝息を立てる京子を覗き込んだイツキは、きつく顰められたその眉間を見ながら言った。
「仔犬、すっかり懐いているじゃないですか。これじゃ呪いの為とはいえ、殺すなんて絶対に無理でしょうね」
シャワーを浴びて部屋に戻って来た京子の足元には、毛むくじゃらの小さな塊が纏わりついていた。
保護施設から貰い受けたと見られるその仔犬には、顔半分が焼け爛れ片方の耳と尻尾が無い。癒えかけの生々しい傷跡は、それが最初からのものではなく何者かによる仕業であると如実に物語っていた。
京子によるものではないことは、その懐き方で分かる。
「ふん」
ジンはそれだけ言うとカーペットの上で胡座に脚を組む。その隣にイツキは両膝を揃えて胸に引き寄せて座った。
「起きるまで、待ちましょうか? あ、でもまた幻覚扱いか……。にしても、どうやってこの女性を見つけたんですか?」
「企業……」
「企業秘密は、面白い冗談にはなりませんからね」
イツキがジンの言葉を奪うと、ジンはそのイツキにだけ見えるらしい美しい顔で、にやりと笑ってみせた。
「なかなか分かってきたな」
そう言うアナタがね、とツッコミそうになる自分をぐっと押さえてイツキはジンの答えを待つ。
「聞こえるようになるんだよ。ポンコツが一人前になる頃、お前にも聞こえる。泥沼からどうにも抜け出せなくなった奴の悲鳴がな」
ジンはイツキの方を見ないで答える。その横顔に覗く寂しそうな笑顔は、何だろう? ジンの視線の先には「
「ポンコツのために、京子が何を願うのか見せてやろう」
それが合図だったかのように、イツキとジンは強烈な渦を巻く光の塊に呑み込まれた。
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