CASE 1-7
掃除を終えた
二人の姿を見送ったその場で、へたり込むようにしてイツキは頭を抱えて座る。
それを見てジンが笑った。
「どうした? 何を悩む?」
「イツキさん。あたしが復讐を望まない理由が、分かったでしょう? 復讐したい人が、居ないの。もちろん、怒りはある。でも、それを向ける相手が分からない。誰彼構わずに怒りをぶつけるの? それは復讐じゃないよね。それって八つ当たりだよね? だから、残ってしまったお父さんの為に、あたしの存在をなかったことにして貰おうと思ったんです」
ジンの、明日菜の、聞こえてくる二人の声にイツキは蹲るままで何も答えることが出来なかった。
「おい、ポンコツ。これが初仕事とはいえ随分な態度だな? 何も悩むことはあるまい。明日菜を助けると思って、その願いを叶えてやるだけだ」
「……本当に? 本当にそうですか? 他にもっと……根本的にもっと……こう……なんかこう……上手く、変えることが出来ないんですか?」
「明日菜の代わりに、父親の命と引き換える? そうして独りになった明日菜は、どうなるだろうな? 考えるまでもないと思うが、どうだろう」
「違う!! 違います……。じゃっ、じゃあ人殺しのお兄さんは? その命と……」
勢いよく立ち上がり、思わず出てしまった言わなくてもなくて良いその言葉は、明日菜の兄を人として見ていないと言ったようなものだった。イツキは慌てて口を押さえるがすでに遅い。
それを見た明日菜は、良いんですと悲しそうな顔で、首を振ると「それにお兄ちゃんは、もう……」と続けた。
「人の話は良く聞け。明日菜は最初に言っただろう? あたしの家族は、今はもうお父さんしかいませんってな。……とっくに死んでるよ。それに明日菜は、もう死んでしまったことを幸いに、生きていたくないんだ」
追い討ちをかけるジンの言葉に、しょぼくれて肩を落とすイツキに明日菜は、明るい声で言った。
「独りになっちゃうお父さんは、気の毒かもしれないけれど、もうあたしの心配をしなくても良くなるし、あたしの存在が最初から無いことになるのならきっと、大丈夫。
……あたしのお父さんは、ね?
強いんです。強くて、優しくて……。
だから、きっと大丈夫だと思うの。
でも、それでもあたしが自殺なんてしたと思ったらそれは絶対、耐えられない……自分を責めちゃう……それで……。
あたし、お父さんが大好きなんです。だから……」
またいつか、どんな小さな幸せでも良いからそれを感じるまで、生きていて欲しい。
「酷なことを、言ってますか?」
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