第3話
「さて、『バベル』に着いて今現在解明されていることだが、はっきり言って何も判らない事が解明されている」
チェンバレンの言葉に全員が渋い顔をする。
「あれから三ヶ月経つが動きがない、開いたら門から内部に入りはしたが何も発見はない」
交戦した怪物と同じよう銃や大砲は効かず、ならばと鶴嘴や土木建材で塔を削ろうとしたが徒労とかした。
「今世界中で確認されたバベルの数は?」
「少なくとも二十は下りますまい」
「ロンドン、パリ、ベルリン、モスクワ、新宿」
「我がアメリカにはボルチモア、ブラックヒルズ、メンドシーノ、キラウエアだ」
「我が中国には判っているだけで泰山、湖南省張家界市だ」
「インドのアナミュディ山とムンバイにも出来たと報告あった」
これ以外にもエジプト、ツクソールにアレキサンドリア、南アフリカのケープタウン、スペインのジブラルダル、モロッコのセウタ、トルコのイスタンブール、ギリシャのクレタ島。
「我がイタリアのローマにも出来ておる」
ムッソリーニの発言を最後に全ての列席者が顔を顰める。
情報伝達が遅れる未開の地や遠方を加えると更に増えるだろう事は自明の理だ。
重苦しい沈黙が会議場を覆う。数秒にも数時間にも感じる静寂。しかしこの静寂も次の瞬間には吹き飛ぶことになる。
「か、か、かい、会議中失礼します!」
「なんだ! 今は重要な会議中だ! 入ってくるなと……」
「も、も、もう、申し訳ありません! し、しかし! と、塔に、塔に!!」
『『『塔に!?』』』
「塔に、う、う、動きがあ、あ、あり、ありま、ありました! き、きゅ、急に、あ、あ、う、こ、これを!」
どもり焦り何を言ってるかよく判らない伝令が差し出した紙をチェンバレンが受け取り目を通す。そして、直ぐに眉間に皺が刻まれる。目が泳ぎ、汗も浮き出ている。
「これは本当か?」
「はっ! 現地にて確認済みであります! 間違いありません!」
チェンバレンの問い掛けに伝令が今度はどもる事無く答える。その返答にチェンバレンは深く溜息を吐く。
「判った、君は出ていたまえ。また続報があれば直ぐに持ってくるように」
「はっ!」
伝令は彼の言葉に短く答えると、来たときと同じく慌しく退室する。
「で、何があったのかな? 教えていただけるんだろうね?」
マンネルヘルムの問い掛けに、目元を軽く揉みながらチェンバレンは頷く。
「……塔、『バベル』の入口と思われる付近に突如石碑が現れたとの報告だ」
「……石碑、という事は文字が?
「ああ、書かれている様だ。しかも……ふぅ」
言いかけてチェンバレンは大きく溜息を吐く。
「余り溜息ばかりついては、幸せが逃げるらしいよ?」
「幸せと現実、『バベル』出現で全て逃げ出したと私は思うんだがな」
マンネルへイムの言葉に思わずとハンソンが突っ込んでしまう。
チェンバレンはそんな二人を見て方を竦めると言葉を続ける。
「ハンソンの言う通りだ、既に色々と通りすぎているし現実逃避したい所だが残念ながら我々はそれを許される立場ではない。石碑にはこう書かれているらしい。『裁きの時は来た、猶予は百年』」
「……それだけか?」
「ああ」
チェンバレンが読み上げた言葉に、ルーズベルトが問い掛け、彼に軽く返事をする。その態度にルーズベルトはまた少しイラつくがフン、と一息入れると腕を組んで黙り込む」
「色々言いたいことはあるだろうが、事実は事実だ。ご丁寧に誰もその文字は読めないのに誰が呼んでもこの言葉を認識できる様だ」
ルーズベルトの態度を白い目でチラッと見つつチェンバレンは続ける。
「文字は不明、英語でもドイツ語でもロシア語でも中国語でも日本語でもない、勿論イタリア語でもないしラテン語でもない、しかし誰もが読める、と報告が各地から来ているようだ」
「神の文字だとでも、お告げだとでも?」
「私に聴かれても困るよ、私は政治家であって考古学者でも文学者でもないのだからな」
開き直ったのかチェンバレンの回答は少し辛辣になってきている。
心情がなんとなく理解できる首脳たちは苦笑をしてスルーすると、またしても眉間に皺を寄せ合う。
「猶予は百年、裁きの時、聖書にあるハルマゲドンのつもりか?」
「あるいは最後の審判……」
ルーズベルトの呟きにルブランが反応する。
『!!!!!』
その瞬間、その場にいる全員がそれを聞いた。
金属を震わし音高く鳴り響き金管楽器――
七つの異なるラッパの音を――
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