第2話
1940年1月スイス連邦・ジュネーブ――
国際連盟本部ビルには、ほぼ世界中の大国と呼ばれる首脳が集まっていた。国連大使でなく国のトップレベルが一堂に会している。
米国ルーズベルト大統領、英国チェンバレン首相、仏国ルブラン大統領、伊国ムッソリーニ首相、西国フランコ首相、芬国マンネルヘルム首相、典国ハンソン首相、豪州メンジース首相、ソ連トロツキー書記長代理、中華民国蒋介石、
「ここに日本とイタリアが居るのは気に喰わんが仕方あるまい。世界の一大事だ」
「今はそんな場合ではない、今後の世界の在り方を決めねばなならん場だ」
ルーズベルトの言葉をチェンバレンが窘め周りを見渡す。
「各国のお歴々にはこの難局の折よくこの場に集まっていただき感謝する。色々と意に染まぬ事はあるだろうが、今だけは腹に仕舞いどうか協力の程よろしくお願いしたい」
チェンバレンの言葉に無言で頷く出席者。
「司会及び議事進行はこのチェンバレンが行うがよろしいか」
その言葉にも無言で頷く。
「では、前置きは置いて簡潔に議題を述べる。この異変についての対応をどうするか」
「ただ単に塔というのは味気ないですな、まずは各国共通の呼称などつけてみては如何かな?」
マンネルヘルムが軽く手を挙げ伺いを立てる。
「ふむ、そうですな。各国共通の呼称などあれば今後とも楽でしょう」
「名前などどうでもいいわ!」
載仁親王が賛成をし、それに対抗するようにルーズベルトが反対する。
「いや、合った方が共通認識もしやすい。私はそう思うがみなはどう思う?」
「そうだな、合った方が良かろう。私も賛成だ」
ルブランが賛成を現し、ムッソリーニもそれに続く。トロツキーに蒋介石も軽く頷き、メンジース最後にフランコが頷いた。その流れにルーズベルトはピクリと頬を震わせるが何も言わず沈黙する。
「殿下、どうでしょう何か良い名称はあるでしょうか?」
マンネルハイムの問い掛けに載仁親王が首を傾げる。
「私でよろしいので?」
「殿下はこの中で一番格式が高く、また年長者で在られる。どうかお願いしたいのですが」
「どうか殿下、私からもお願いします」
マンネルハイムとチェンバレンが訊いてくると、少し悩んだ後言葉を発した。
「そうですな、在り来たりであり捻りもないですが『バベル』は如何でしょう」
載仁親王の言葉に列席者が耳を傾ける。
「旧約聖書に創世記に出てくる巨大な塔の名がバベル。シュメールの言葉では確かエ・テメン・アン・キー、天と地の基礎となる建物という意味でしたかな。天にも届けと創り神の怒りを受け破壊された塔。実現的でない比喩としても西洋の方々は使われると聴きましたので如何かと」
「ははははは、正に突然出来たあの塔は空想的ですな。しかも門でもあった。塔という象徴にしても丁度いい。私は賛成します」
載仁親王の命名にマンネルハイムが直ぐに賛意を示した。
「それにしても、よく知っておいでですな」
「いえ、西洋を理解しようとすれば自ずと理解することです。大したことではありませんよ」
既に老境に入っているこの異国の皇族にマンネルハイムは
(日本という国は敵にすれば恐ろしく、味方にすればこれほど頼もしい事はないかもしれんな)
マンネルハイムはこれを奇貨とし、日本と誼を結ぶことを考え始めたのである。
「それでは『バベル』と呼称し今後各国共通とする事とします」
チェンバレンの言葉に会場が賛意を示す。一部を除いてだが――
ルーズベルトと蒋介石、そしてムッソリーニ。
ルーズベルトは日本を戦争に引きずり込み、太平洋における既得権益を奪うことを画策していたが、この異変でそれが後退した。大国としてまた日本に知られぬ為にもこれは、心に秘して置くべき事だが態度に強く出ていた。
蒋介石は既に中国本土で日本と戦争が起きている。米英仏蘭等の西洋諸国から援助を貰い満州は元より台湾からも朝鮮半島からも日本を追い出したいのだが、この異変で事態が変わってきている。また共産主義者の台頭もあり足元が揺らぎ始めている。
そしてムッソリーニ、今の所不気味な沈黙を守っている。会議を邪魔する事無くはたまた積極的にも関わって来ない。
会議はまだ始まったばかり、笛はなれどもまだ誰も踊らず――
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