現代ダンジョン物語

宮城谷 英治

第1話

 1939年9月、ドイツ国及びソビエト社会主義強国連邦――通称ソ連がポーランド第二共和国に電撃的な浸透作戦を行い第二次世界大戦の幕が切って落とされた、かに見えた。ワルシャワ陥落目前、突如として異変が起こった。

 ソ連の首都モスクワ――クレムリン赤の広場が突如として姿を消し、そこには巨大な謎の塔が発生したのである。それと同時にドイツ国ベルリンポツダム広場にも同様の塔が出現した。

 謎の塔出現と共に両政府の首脳部及び指揮系統は完全に麻痺、両軍は撤退をする。この状況を利用しようとポーランド救助を目的としてドイツに宣戦布告をしていたフランスとイギリス両政府はドイツを占領下に置くべくアルデンヌの森及びベルギー・ブリュッセルより侵攻を行おうとした。しかし、これも実行されることは無かったのである。

 フランスの首都パリにあるシャン・ド・マルス公園一帯及びエッフェル塔の消失し、イギリスの中心地ロンドンではタワーブリッジ及びタワーオブロンドンが消失し同じく不可思議な塔が出現した。

 この出来事はこの四国に限ったことではなく、アメリカ合衆国・スペイン・スウェーデン・中国・オーストラリア・チベット・インド・エジプト・イラク・イランや中東諸国、アフリカや東南アジアにある植民地そして大日本帝国でも世界同時的に発生したのである。

 塔発生後、各国首脳はある者は攻撃を、ある者は静観を、そして大多数は調査をしようとした。しかし、内部に入ることはおろか入口を発見することも破壊することも敵わず、塔の材質が何できているのかすら判らず途方に暮れる事になる。

 だが、その悩みも24時間後には吹き飛ぶことになった。塔の一部が突然せり上がりその部分より人類とは違う、生物が大量に吐き出されたのである。

 雑多な色をした怪物達、小さな鬼の様な怪物、豚の顔をした二足歩行の怪物、狼やライオンの顔をした二足歩行の生物、背中に翼が生えた悪魔の様な化け物等々現実には居ない生物が大挙してきたのである。その後ろよりもっとも恐怖を抱かせる化け物、所謂ドラゴン、アジアでは竜と言われる怪物まで出現した。各国は一般人を非難させつつ軍に応対を任せたがここで更に驚愕に襲われる。銃が効かない、手榴弾を投げるがそれも効かず、兵は次々に殺された。司令部は戦車まで出撃させたがそれも効果を出さず次々に破壊されていった。

 だがしかし、極一部抗っている国があった。植民地化されていないアフリカにアジアの一部そして大日本帝国であった。

 

 大日本帝国首都東京――新宿御苑から四谷、赤坂保養地に明治神宮を含む広大な地域にその塔が発生していた。近衛師団隷下近衛歩兵第一連隊から第四連隊までの合計約六千名が皇居を中心として守備をしていた。だが戦闘開始直後より通常兵器では一切傷を負わない敵に味方は討ち減らされ一時間と経ずに約二千名まで死傷者が膨らみ戦意も下がる一方であった。近衛師団長井伊田中将にもこの報は齎されていた。

「参謀長、これはいかんな」

井伊田の呟きに参謀長・東大條ひがしおおえだ大佐は頷く。

「銃弾も爆薬も手榴弾も効かない、果ては戦車砲すら効果無しですからな」

「ははは、ここまで有効手段がなければどうしようもない。殴ってみるか?」

東大條の言葉に井伊田も苦笑いと共に返す。

「伝令、第二連隊長深川大佐より伝令! 我ツイニ勇戦鬼神ニ一矢報ウ 刀槍ヲ馳走シ徒手空拳ニテ屠ルナリ です!」

「……、瓢箪から駒、か?」

「……、嘘から出た真かと」

井伊田と東大條はしばし呆然としたが軽口を叩き口許に笑みを浮かべる。

「通信兵平文で良い、敵恐ルルニ足ラズ鬼神既ニ只ノ哭モノナリだ! 蹴散らせ」


 約半日後、首都東京は怪物が一掃されたのである。そしてそれは、欧米諸国の様な近代兵器が少ない地域ほど速く制圧され鎮静していくのであった。

 しかし、未だ問題は何も解決されていなかった。塔はそのままそこに在り続け怪物が吐き出された門は開放されたままなのだ。何時また同じ事態に陥るのか、何も解明されていないのだから……。


「参謀長、これが我が国だけなのか他国でも起きているのか……」

「閣下、これが世界規模で起きていると?」


東大條の問いに井伊田は答えない。いや、答えられない。


「まずは情報収集だ、場合によっては戦争どころではない」

「大本営会議を召集し陛下御臨席の元、統帥部長及び次長会議を、ですな」

「ああ、誠に畏れ多い事ながら陛下の耳にも入れておかねばなるまい」


井伊田の言葉に東大條は頷くと陣営を出る。報告に向かう為に……。



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