27

「ありがとう。木花さん」と草子は言う。

「それ。さっきからずっと気になってた。木花さんじゃなくて、夕子。夕子ちゃんでいいよ。私も草子ちゃんのこと、もう草子ちゃんって名前で呼んでいるんだからさ。私も木花さんじゃなくて、夕子ちゃん。ね? そのほうがお互いに遠慮しなくていいでしょ? 私たち、年齢も同じくらいみたいだしさ」

 夕子ちゃんにそう言われて、草子は少し困ってしまった。

 草子は誰かのことを名前で呼ぶことにあまり慣れていなかったのだ。

「……夕子さん」照れながら、草子は言う。

「夕子ちゃん。さんはいらないよ」と頬を膨らませて、不満そうな顔をして夕子ちゃんは言う。

「……夕子ちゃん」顔を真っ赤にしながら、草子は言う。

 すると夕子ちゃんは嬉しそうな顔をして、「うん! それでいいよ。草子ちゃん!」とにっこりと笑って草子にそう言った。

 二人はそんな会話をしながら、ずっとお互いの手を繋いだままだった。

 なんとなくだけど、二人とも、……このままお互いの繋いでいる手をすぐに離すことができないでいた。

 でも、それから少しして、自然とそれが当たり前のことのように(まあ、当たり前と言えば当たり前のことなのだけど)二人は握手をしていた手を離した。

 ……それは、どちらから手を離したのだろうか? よくわからない。草子からだったような気もするし、夕子ちゃんからだったような気もする。でも、とりあえず二人はお互いの手を離した。そして、自分と夕子ちゃんの手が離れてしまったことを、草子はなんだか、すごく悲しいことだと思った。

「どうかしたの?」そんな気持ちが顔に出ていたのかもしれない。優しい顔で夕子ちゃんが言った。

「……ううん。なんでもない」にっこりと笑って、草子は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る