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「ありがとう。木花さん」と草子は言う。
「それ。さっきからずっと気になってた。木花さんじゃなくて、夕子。夕子ちゃんでいいよ。私も草子ちゃんのこと、もう草子ちゃんって名前で呼んでいるんだからさ。私も木花さんじゃなくて、夕子ちゃん。ね? そのほうがお互いに遠慮しなくていいでしょ? 私たち、年齢も同じくらいみたいだしさ」
夕子ちゃんにそう言われて、草子は少し困ってしまった。
草子は誰かのことを名前で呼ぶことにあまり慣れていなかったのだ。
「……夕子さん」照れながら、草子は言う。
「夕子ちゃん。さんはいらないよ」と頬を膨らませて、不満そうな顔をして夕子ちゃんは言う。
「……夕子ちゃん」顔を真っ赤にしながら、草子は言う。
すると夕子ちゃんは嬉しそうな顔をして、「うん! それでいいよ。草子ちゃん!」とにっこりと笑って草子にそう言った。
二人はそんな会話をしながら、ずっとお互いの手を繋いだままだった。
なんとなくだけど、二人とも、……このままお互いの繋いでいる手をすぐに離すことができないでいた。
でも、それから少しして、自然とそれが当たり前のことのように(まあ、当たり前と言えば当たり前のことなのだけど)二人は握手をしていた手を離した。
……それは、どちらから手を離したのだろうか? よくわからない。草子からだったような気もするし、夕子ちゃんからだったような気もする。でも、とりあえず二人はお互いの手を離した。そして、自分と夕子ちゃんの手が離れてしまったことを、草子はなんだか、すごく悲しいことだと思った。
「どうかしたの?」そんな気持ちが顔に出ていたのかもしれない。優しい顔で夕子ちゃんが言った。
「……ううん。なんでもない」にっこりと笑って、草子は言った。
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