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「あ、草子ちゃんが笑った」

 と驚いた顔をして夕子ちゃんは言った。

「ずっと無表情のままで、全然笑わないから、草子ちゃんのこと、ああ、この人は『笑わない人』なんだって、私、勝手に思ってた」

「……え?」草子は言う。

 ……笑っていない? そんなことはない。私は笑うことが大好きだったはずだ。私はずっと一日中、楽しくて、幸せで、ずっと笑っているような人間だったはずだった。……でも、確かにさっきからずっと、私は『笑っていなかった』ような気がする。どこかで少しだけ笑ったような気もするけど、確かに思い返してみると、私は森の中で目覚めてから、ずっと無表情のままだった。

 ……こうして夕子ちゃんに出会うまでは。

 草子は目をぱちぱちとさせて夕子ちゃんのことを見る。

「まあ、笑った理由については、この際、今回だけは大目に見てあげよう。なんだかちょっとだけだけど、本当に私のおかげで、草子ちゃんは元気になったみたいだからね。それに草子ちゃんが笑ってくれると、なんだか私も嬉しいしさ」と本当に嬉しそうな顔をして夕子ちゃんは言った。(でも、そう言いながらも、夕子ちゃんは握手をしている手の力をぎゅっと思いっきり強めていたのだけど……。どうやらぼんやりしている夕子ちゃんを見て草子が笑ったのだと、夕子ちゃん自身はそう勘違いをしているみたいだった)

「……なるほど。朝露草子ちゃんか。君は弱虫さんでも、ぼんやりさんでもなくて、朝露草子ちゃんっていう名前なんだ。朝露草子ちゃん。……うん。本当にいい名前だね。本当に草子ちゃんにぴったりの名前だと思う」

 思いっきり草子の手を握ったあとで、満足がいったのか、あるいは気が済んだのか、いつもの調子に戻った夕子ちゃんは、笑顔でもう一度、そう言って、草子の名前を褒めてくれた。

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