25

 それから草子は、「えっと、こんにちは。私の名前は弱虫さんでもぼんやりさんでもなくて、草子です。朝露草子。よろしくね。……えっと、木花さん」と一度咳払いをして照れ隠しをしてから、草子は夕子ちゃんにそう言って、自分の自己紹介をした。

「……草子(くさこ)。……朝露草子(あさつゆくさこ)」

 夕子ちゃんは、草子の顔をじっと見ながら、草子の名前をそんな風にして、まるで呪文のように、小さな声で口にした。

「そう。朝露草子。それが私の名前だよ」とにっこりと笑って草子は言った。(恥ずかしがってしまったさっきの自己紹介とは違って、今度はちゃんと自分の名前を照れずに夕子ちゃんに伝えることができてよかったと草子は思った)

「……草子。……朝露草子ちゃん」

 夕子ちゃんはまた、草子の名前を小さな声で言った。

 夕子ちゃんの視線はどこか遠いところを見ているような、そんな風に見えた。草子のことをじっと見ているようで、まったく別の、どこか違うものを見ているように思えた。どこか視点もあっていないように見える。明らかに夕子ちゃんの様子は今までとは違っていた。

「? ……どうかしたの? 私の名前、どこか変かな?」と草子は言った。

 すると夕子ちゃんはその草子の言葉を聞いてはっとすると、いつもの調子に戻って、「……あ、ううん。そんなことないよ! 全然変じゃない! すごく、本当にすっごく素敵な名前だと思うよ! 草子っていう名前」と慌てた様子でにっこりと笑って、草子に言った。(そんな夕子ちゃんを見て、草子はまるでついさっきの自分のようだと思って、なんだかちょっとだけ、そんな自分たちの似ているぼんやりとした反応のことを面白いと思った)

 そんな夕子ちゃんを見て、くすっと思わず『草子は笑った』。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る