13

 草子はしばらくの間、自分の手のひらの上にある、その綺麗な白い花をじっと見つめた。

 その白い花を見ていると、なんだかとても懐かしい気持ちになった。『誰かの、すごく大切な思いのようなもの』が、その白い花の中には込められている気がした。

 草子は、なんだかその白い花から目をそらすことができなくなった。

 そうして草子がその白い花をじっと見ていると、草子の近くの森の中で、がさっという大きな音がした。

 なにかが森の中で動いた音だ。

 その音を聞いて草子は、はっとして、その意識を覚醒させた。

 ……危ない、危ない。ぼんやりしている場合じゃない。私は今、かなり危険な状態にいることは間違いないのだ。(ただでさえ、記憶がなくて困っているのに……)

 草子はとりあえずその白い花を自分のハーフパンツのスボンのポケットの中に無くさないように大切にそっとしまいこんだ。

 それから草子は自分の白色のリュックサックをその小さな自分の背中に背負うと、音のしたほうに体を向けた。

 草子はいつでも走り出せるように、前傾姿勢をとる。(……誰だろう? それとも人ではなくて森の動物さんたちだろうか? 猿さんや鹿さんならともかくとして、野生の犬や、最悪、森の熊さんとからだったら、……本当にやばいな)

 草子は、神経を研ぎ澄ませる。

 目を凝らして、森を見つめて、耳を済ませて、風の音を聞こうとする。森の匂いを嗅いで、そこにいる何者かの正体を探ろうとする。

 がさっと、また大きな音がした。

 やはり、なにかがいる。

 ……武器。木の棒でもいいから、なにか手頃なものはどこかに落ちていないだろうか?

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