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 草子は、きょろきょろと自分の周囲の地面を見る。でも手頃な大きさの木の枝や、あるいは石のようなものはどこにも落ちていなかった。

 これは、もう森の熊さんだったら逃げるしかない。

 草子は思う。(そして、なぜか小さく笑った)

 ……案外落ち着いている。どうしてだろう? 怖いことは怖い。ほら、足だってちゃんと震えている。(草子の両足は、さっきからずっと小さく震えていた)でも、なぜか心は思ったよりは落ち着いている。

 私は死ぬのが怖くないのかな? ……いや、そんなことはない。『死ぬのは怖い』。じゃあどうして私の心は、こんなに落ち着いているのだろう?

 ……もしかして、『やり残したことがないからだろうか』?

 記憶がないからわからないけど、もしかして記憶をなくす前の私は、すでに『私のやるべきこと』をやったあとなんじゃないだろうか?

 だから、私は落ちついるのだろうか?

 だから私は、こんな深い森の中にたった一人でやってきたのだろうか?

 私は、……もしかしてこの場所で、……。いや、でも。そんなはずはない。きっと、絶対、違う。私は……。でも……。じゃあ、どうして私はこんな場所にひとりぼっちでいるんだろう?

 と、そこまで草子が考えたところだった。

 急に自分のすぐ目の前になにかの気配を感じた。

 その気配を感じて草子はしまったと思った。考えに集中しすぎた。森の中にいるなにかの気配を探ることをすっかりと忘れていた。

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