9
約束をしようか、と言ったあと、夕子はなにも言葉を話さなかった。
草子も無言のままだった。
とても静かだ。
なんの音も聞こえない。(しんしんと雪が降ってるせいかもしれない)
それから少しして夕子はにっこりと笑うと、そっと自分の両手を背中の後ろに回して隠した。
「お花をあげる」と夕子はいった。
「お花?」草子は言う。
「うん。手を出して」
その夕子の言葉通りに草子は自分の手をそっと夕子の前に出した。夕子はその草子の手をぎゅっと自分の後ろに隠していた手を出して、とても優しく握りしめるようにして握った。
夕子は草子の手の平の中になにかを置いていった。
草子が手を開けると、そこには小さな白い花が一輪だけ咲いていた。
それは本当にとても綺麗な花だった。
その白い花を見て「うわ」と思わず草子は小さな声を出した。
草子がきらきらと輝く目で夕子を見ると、夕子はにっこりと嬉しそうな顔で笑った。
「さようなら、草子ちゃん」と夕子は言った。
だけど、草子は夕子にさようなら、を言えなかった。
夕子とさようならなんてしたくないと、草子は思っていたからだ。
遠くで汽車の走る音が聞こえる。
もう直ぐこの駅に汽車がやってくる。
二人のお別れの時間が迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます