「誰かそこにいるの?」

 暗い闇に向かって草子は言った。

 でも、返事はない。

 ……でも、確かになにかがその暗い闇の中にはいた。

 なにかが確かに、そこからじっと草子のことを見つめていた。

 草子はじっと闇を見つめる。

 すると、その闇の一部がゆっくりと動き出して、草子のいるところに向かって動いているのがだんだんと見えてくるようになった。

 やがて闇の中に赤い二つの光があわられる。

 その赤い光はなにものかの『目』だった。

 その二つの目はじっと闇の中から草子のことを見つめている。


 ざーっという雨の降る音が聞こえる。

 草子の目はその赤い光から視線をそらすことができないできた。

 やがて闇の中から草子のいる洞窟の入り口近くの光の届く場所の中に、そのなにものかがゆっくりとその姿をあらわした。 

 それは一匹の蛇だった。

 全身が黒い鱗で覆われている、赤い目をした不思議な蛇だった。

 不気味な蛇。

 いつもならすぐにこの場所から逃げ出してしまうような出会いなのに、このとき草子はそんな蛇を見て思わず、……綺麗と思った。

 黒い蛇は草子のいるところのすぐ目の前でその動きを止めた。

 草子と黒い蛇は洞窟の中で向かい合うように、その目と目を見合わせる。


 すると蛇は草子を見てにっこりと笑った。(蛇が笑うわけないのだけど、草子には蛇が笑ったような気がした)

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