第7話
お昼休み。優と留美は学食に来ていた。いつもはお弁当派の二人だが、たまには学食に足を運んでみようという気分になったのだ。店内は大勢の学生で賑わっていた。ガラスケースの中には所狭しとシリコン製のカレーライスやラーメンが並び、その前には何を食べようか決めかねている人たちでごったがえしている。よく学食を利用している友人に「どんぶり系が早いし量も多くておすすめだよ」と聞いていた二人は人だかりを避け、比較的空いている「うどん/どんぶり」と書かれた列に並んだ。
「で、悟さんに聞いてみることにしたってわけ?」
列に沿って壁に貼られたメニューを真剣に眺めながら留美が聞く。
「うん。一歩前進するためにもそれがいいかなって。あ、私この鳥天・蕎麦定食ってやつにしようかな」
「それ、すごく量が多いって女子ラクロスの松下から聞いたよ。相当ガッツリなんじゃない」
「今日も授業終わったらバイトだから、いっぱい食べておく作戦なの」
「そっか、それはいいかも。それで、具体的にどうするの?」
留美の問いかけに答えようとしたとき、丁度二人が注文する番になった。優は鳥天・蕎麦定食、留美は焼き鳥丼と生姜の乗った冷や奴の小鉢を頼んだ。学食デビュー。なんだか照れ臭くて優はニヤついてくる顔を押さえきれない。恥ずかしさを紛らわそうと足早に空いている席を探した。丁度二人分、緑がいっぱいの中庭を覗く窓際の席があったのでそこに並んで腰掛けた。
「よし、食べようか」
揃って箸を持つと、いただきます、とまず一口。
「――どう?」
留美が目をキラキラさせて聞いてくる。優はゆっくりと味わってから、こくっと飲み込んだ。
「――美味しい!」
「だね! 私の焼き鳥も一口あげるよ」
「ありがと。鳥天もどうぞ。あー、今すごく、学生だなーって気分」
「今頃感動してどうする。でも、その気持ち分かる」
二人は思う存分ご飯を堪能した。食後に一口サイズのミニケーキも追加で頼んだ頃、ようやく高まった気持ちが落ち着いてきた。留美はチーズケーキと苦めのコーヒーに舌鼓を打っていたが、思い出したように顔をあげた。
「私、今とってもいいこと思いついたかも」
「何?」
ミルクレープに夢中になっていた優は半分上の空だ。そんなことを気にもせずに留美はぐっと身を乗り出して囁いた。
「悟さんがジンジャーエールをご馳走してくれたって言っていたじゃない。そのお礼という名目で、美味しいジンジャーエールのお店にご飯でも誘うっていうのはどう?」
留美の提案が理解できるまで数秒かかった。ゆっくりと優の頬に赤みが差す。それなら誘っても自然に思えるだろう。そして何より、二人きりでご飯に行く……。
「留美、天才だわ!」
「美味しいものを食べると頭が冴えるのよ。うん。お礼は今度アイスを奢ってくれるってことでヨシとするわ」
そう言って、彼女は茶目っ気たっぷりの笑顔で微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます