第4話
留美は都会慣れしていない優にいろんなことを教えてくれた。可愛い雑貨が安く売っているお店、美味しいと噂のパン屋さん、学生にとって嬉しい値段で服が買えるお店など。レイトショーで映画を見たり、美術館に行ったりもした。そうしているうちに自然と留美のいるグループの、他の女の子たちとも仲良くなったが、優にとって一番自然体でいられるのは間違いなく彼女だった。
「そんな友だちができたんだ。そしたらもう、学生生活、思いっきり楽しむほかないね」
「はい。いろいろと聞いてくれて、ありがとうございました」
「俺は何もしてないよ。でも優ちゃん、本当によく笑うようになったね。最初に会ったときは、なんかこう、どよ〜ん、て感じだったからさ」
と、ひょいっと表情を変えてみせられた。そんな悟さんに、酷いです、とか言いながら、幸せだなーと思った。
「悟くん、もう来ていたの? 少しいいかしら」
店長が『会議室』と呼ばれている事務所から顔を出して手招きしている。彼はバイト歴が長いし、植物の知識もたくさん持っているため店長の片腕的存在なのだ。
「はーい。じゃ優ちゃん、あと宜しくね」
その後ろ姿を名残惜しそうに見つめている自分に気付いた優は慌てて頭を振って気持ちを切り替えた。
「暑くなってきたなぁ……」
澄わたる青空の下、優は額に手をかざして空を仰ぎ見た。もうすぐ夏が来ますよ、と太陽が教えてくれているようだ。店先の植物に水をあげているといつものようにマウンテンバイクで出勤してくる悟さんの姿が見えた。
「お疲れー。暑くなってきたね。汗、かいているよ」
爽やかな笑顔で女の子が気にすることを言ってくる。
「ちょ、ちょっと待って――」
慌ててエプロンのポケットからハンカチを取り出そうとしている優の目の前にハイ、と何かが差し出された。
「?」
「これ、めちゃうまいんだ。ジンジャーエール。差し入れだよ」
日差しに透ける、涼しげな緑の瓶。受け取ると、ひんやりと冷たくて気持ちいい。
「あ、ありがとうございます」
「冷やして飲んだら最高だよ」
そう言って悟さんはニッと笑った。
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