第二十五話 恐るべし荒野運動
その日は結局アリサは実家に帰ったようだ。夜になっても電気がついていない。
おかげで糸電話攻撃もない。すでに飽きたのかもしれない。
ということで夜に自由時間ができた浩は、パソコンで「荒野運動」を開いた。
フレンド登録した連中の半分以上はすでにログインしている。さすがは人気ゲームだあ。 このゲームの難度はそれほど高くないので、初心者からベテラン、小学生からお年寄りまで楽しめるのだ。
ログインしたらリアルアローが居たので、浩はメッセージを送った。
すると、リアルアローも暇だったようで、すぐにメッセージが帰ってきた。
「今日はエリアサバイバルでパーティ組みませんか?」浩はすぐに了解した。
「エリアサバイバルなら、僕ら遠距離攻撃勢力は組んだほうがいいですよね。15分後のやつにしましょう。」
エリアサバイバルとは、荒野運動のゲームの一つだ。単独でもチームでも参加できる。このゲームではチームのことをパーティんと呼び、5人までがパーティを組める。
15分間、自分の得意技を使って、他の参加者を倒してまわる。もちろん、自分も倒される側になることもある。
2分ごとにエリアが狭くなり、枠からはみ出ている人間は1分以内にエリアに入っていなければならない。遠くから狙撃していれば安心、と思ったらそのエリアが消滅してしまい、あわててゲーム続行のエリアまで走らなければならない。
自分の競技をやりながら生き残る、ということになる。
基本的に、参加するのは格闘技系と投擲系、あとはアーチェリーとかだ。ただ、自分の競技でなくても相手を転ばせるとかでポイントが稼げる。陸上系の連中は、ダッシュで相手に近づいて押し倒して逃げる、などもやっている。
傘下エリアでリアルアローと待ち合わせた。
「九月になって初めてですね。お元気でしたか?」リアルアローが聞いてくる。
「毎日が疾風怒濤に日々ですよ。」浩は答えた。なんだか、リアルアローには難しい言葉を使ってみたくなるのだ。
「シュトルム・ウント・ドランクですか。どんなことが?」リアルアローが知らない言葉を使ってきた。うーん。やはり下手に難しい言葉を使うものじゃないなあ。
「お金持ちのお嬢様が転校してきて、いきなり幼馴染とか言うんですよ。」浩は愚痴ってみた。「ほうほう。そういえばシュガー0さんは学生さんなんでしたね。お嬢様なんですか。幼馴染から恋が芽生えたりしそうですねえ。青春ですね。」
リアルアローは他人事だと思って楽しそうだ。ちなみに、シュガーは浩のゲームでのプレイネームだ。佐藤だから砂糖ということでシュガー。安易だと自分でも思う。
「いや、気を遣うんですよ。理事長の娘だし、町の有力者の娘でもあるんですよ。しかも、転校元の学校から変なのが乗り込んできて、帰ってこいとか言うんですよ。」
愚痴ついでに、そんなことも話してみた。
「そうなんですか、大変ですねえ。あ、もうすぐ始まりますよ。作戦としては、この前と同じでいいですか?私がスナイパー、シュガーさんがライフリングで。」
「もちろんそれで。よろ。」
ちなみに、スナイパーは遠距離攻撃だ。じっくりと狙いをつけて、遠くの敵を一発必中で当てる。ライフリングは近距離に打ちまくる。二人はアーチェリーだから、射る、ということになる。
浩はリアルアローを守って、敵が近づかないようにするという役割だ。エリア外になってしまったら、全力で移動する。
スタートのブザーが鳴った。浩はゲーム内のイベントエリア転移した。
出たところは、住宅街だった。路地に塀があり、民家が並んでいる。あちこちに電柱も立っている。自動販売機もたくさん見える。
隠れるところが多いし、遠距離攻撃もしにくい。見通しは悪くないものの、基本的に動かない的を射るのが得意なアーチェリーでは不向きなエリアだ。
ちょっと今回のゲームはハズレかもしれない。リアルアローもちょっと場所に転移してしまったようだ。
まずはマップを見て、リアルアローとの合流をはかる。
最初のうちは、マップにはパーティメンバーしか表示されない。彼女はちょっと離れたところにいるようだ。
浩はボイスチャットでリアルアローを呼び出す。「合流する。ポイントA-4へ移動。」「らじゃ」夏休みに何度も組んだので、息はぴったりだ。
浩は合流ポイントへ向けて、走りだした。
角を曲がると、いきなり反復横跳びをしている奴がいる。反復横跳びは、耐久性に優れるし敏捷でもあるが、攻撃力を持っていないはずだ。
おそらく参加するゲームを間違えたんだろう。エリアサバイバルではなくて、耐久サバイバルというほうの競技では反復横飛びのメンバーはすごく強い。
浩は立ち止まり、アーチェリーの矢を構える。すろと、反復横跳びをしている男に向かって、走ってくる男がいる。おそらく単距離陸上の選手だろう。反復横跳びの選手を殴ってダメージを与え、そのまま走り去るつもりなのだろう。
獲物を横取りされた、と浩は思った。アーチェリーは遠距離攻撃できる代わりに、予備動作が比較的長い。そのため、反復横跳びの男が倒されるかと思ったのだ。
もちろん一回殴ったくらいでHPは尽きないが、ただでさえ狙いにくい反復横跳びプレイヤーのターゲットが、おそらく位置が変わってしまう。
かといって浩の腕では短距離走の選手に矢を当てることは難しい。猛スピードで動く的に当てるには、まだスキルが足らないのだ。
浩が躊躇しているうちに、短距離選手が反復横跳びの男にラリアットをくらわせようと、猛スピードで接近した。
瞬間、反復横跳びの選手は。素早い動きでそれをかわし、逆にラリアットを掛けた。それがカウンターになり、短距離選手はそのまま地面に倒れた。
反復横跳びの選手は、その倒れて短距離選手の上を何度も跳び、その都度蹴りでダメージを与える。そのうち短距離選手はHPゼロで消えるだろう。浩は回り道をして、リアルアローへの合流を急いだ。
何と合流ポイントにたどり着いた時には、リアルアローはもう待っていた。
「お待たせしました。」と浩が言うと、「いえ、今来たところです。」とリアルアローは言う。
「なんだかデートのカップルみたいですね。」と浩は素直な感想を言う。まあ、リアルアローさんが女性なのかどうかも知らないが。
するとリアルアローは「え、くぇrtゆいおp@」と、いきなり混乱している。どうやら、あまりこういう挨拶に慣れていないらしい。クールビューティの年上のお姉さまを想像しているのだが、そうでもないのかもしれない。
と、その時、砲丸がいきなり飛んできてリアルアローに直撃し、リアルアローは昏倒した。あっと思う間もなく、その上をさっきの反復横跳びの男が蹂躙していく。
浩はあわてて矢をつがえるが、時はすでに遅く、近づいてきた砲丸投げの男になぎ倒された。刹那、リアルアローのHPが無くなり、半透明になる。反射的に反復横跳びの男は浩の倒れた体に上に移動し、蹴り続ける。こうなって初めて分かったが、反復横跳びの男の蹴りは威力が高い。あっという間に浩のHPも削られ、結局浩のパーティは最初にエリアが狭くなる前に消えた。 もちろんこれだと、参加したメンバーにもらえる限定アイテムなど入手できなかった。
帰還エリアに戻ると、浩とリアルアローはお互いどよ~んとしながらベンチに座りこんだ。
「すみません、私が焦ってしまって。」とリアルアローが謝るが、あれは浩も悪い。
「いえ、僕が本当はリアルアローさんを守るはずなのに、砲丸にまったく気づかなかったので僕も悪いです。ごめんなさい。」
浩は賢明に謝る。
「いえ、つまらない冗談に動揺した私がいけないんです。周りに問題を起こした奴がいて、昼間はそれの対応に追われていたんです。」リアルアローは愚痴りだす。
「部下というか、同僚みたいなものなんですが、人の言うことを全く聞かないんですよ。そのせいで回りに迷惑をかけているのに本人はまったく自覚がない。あまつさえ、外部に乗り込んでいって追い返されたり。これは、無駄な行動力と言わざるを得ません。本当に頭が痛いんです。」
無駄な行動力かあ。なんか、聞いたことがあるな。世の中、無駄な行動力であふれているのだろう。
「お疲れのところ、追加で疲れされてごめんなさい。リア友なら、それこそ飯でもおごるんですけどね。まあそうもいきませんからね。今度は、もうちょっとアーチャーに向いた場所でパーティを組めるといいですね。」浩は社交辞令を言った。
「そうですね。もしリアルで会えたら、食事でもしながら愚痴を聞いてくださいね。」
「はい、喜んで。でも、リアルアローさんには申し訳ないですが、僕は高校生なんで、お酒はつきあえないです。せいぜいファミレスですよ。リアルアローさんはファミレスなんて行ったことないでしょうから、ちょっと無理かもですね。」浩は素直に思う通りのことを言う。普段から高級ワインを飲んでいる風のお姉さまは、きっとファミレスなんかは言ったことはないだろう。
「ファミレスに行ったことがないのは事実ですが、私もお酒は飲めませんよ。では今夜は疲れたので、これで失礼します。」リアルアローはログアウトした。
たぶん、疲れたのの三分の一くらいは浩のせいかもしれない。
お疲れさまでした、と心の中でつぶやくと、浩もログアウトした。
ども。
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