第二十話 アリサの朝食

昨夜は、アリの突撃がなかったので、平穏な夜だった。

一応宿題を片付けてアリサから来ていたメールに返信した後、とっておきの本、「恋するおっぱい」をじっくり楽しんでから、夢の国に旅立った。


夢の中でも、たわわなものに囲まれて至福の時を過ごしていた。


「ああ、おっぱい天国…」とつぶやいた瞬間、布団ごしに腹の上に何かが落ちてくる衝撃が走った。

「うわっ」浩は飛び起きようとした。しかし、腹の上に重みがかかっている。そう。今朝もやって来たアリサだ。

まぶしいPのエンブレムが胸に輝く、プラチナ学園の制服に身を包んでいる。スカートからすらりと伸びた、細くて白い足がなまめかしい。白いソックスにはなぜかユニオンジャックのワンポイントが入っている。


「おっぱい天国だったの。よかったわね、ヒロくん。」アリサは冷たく言う。

「お、おう…」言い訳のしようがなく、浩は何も言えない。


「幼馴染の私には無いものを。二次元に求めてるわけね。いい度胸しているわね。」

いや、そういわれましても。

ただ、ここで、「アリサちゃんもなかなか良い物をお持ちで…」とかいうとウソになるし、かといって「将来が楽しみなおっぱいだよね。」とか言うのも殴られそうだ。とりあえず沈黙は金。まあ、それで乗り切れるとは思えないのだが。


「ヒロくん、どうせ、昨夜寝る前に『恋するおっぱい』でも見てたんでしょう?この変態幼馴染!」

 図星だ。 でも、どうしてアリサは浩のコレクションをことごとく言い当てるんだろう?


「まあ、私のことを思い浮かべられてもキモイから仕方ないわね。あ、でももしかして、あの縞パンを…」アリサが言いかけたところで、浩は大声を出す。

「アリサちゃん、おはよう。今日も起こしてくれてありがとう。こんなかわいくて優しい幼馴染が居てくれるなんて、僕は幸せだよ!」

何とか、心にも無いことを並べる。


「ちゃんとご挨拶できて偉いわね、ヒロくん。」アリサの機嫌が直ったようだ。

とりあえずよかった。

「ヒロくんはおっぱいだけじゃなくて、足も好きなの?」アリサが問いかける。浩はさっきからずっとアリサの白い足から目が離せなくなっていたのだ。ついでに、健康な男子の象徴も顕現している。


「もう、そういう攻撃はやめて。つい、目が行っちゃうんだよ。アリサちゃんが魅力的だから。足でも手でもなんでも、アリサちゃんが素敵だからだよ。」ちょっと苦しいと我ながら思う。


「そうね。それはそうよね。仕方ないか。今日は許してあげる。」

何だこれは。チョロインか?

まあ、男の生態に理解があるのかもしれないんだが、それならあまり攻撃しないでほしいものだ。


「着替えるから、下で待っててよ。起こしてくれてありがとう。」浩がそういうと、アリサは素直にうなずき、制服のプリーツスカートの裾をふわりと翻して部屋を出ていった。

少しずつ、ルーティンが出来上がっていく。何となく浩はそんな風に感じていた。

まだほんの数日だが、アリサがいる生活が日常になりつつある。


今日の朝食はトーストとコーヒーとベーコンエッグだ。ついでにレタスが皿の上に乗っている。

「今朝はアリサちゃんが用意してくれたのよ。お嬢様なのに凄いわね。」へー、そうなんだ。お嬢様なのに、やるな! 浩も素直にそう思った。

「アリサちゃん、食事も作れるんだね。すごいね。」浩は称賛する。

アリサもちょっと得意そうだ。

「そんなことないわよ。これくらい、小学生だってできるわ。」そういいながらも、鼻がひくひくしている。ちょっと胸を張って、反り返っている。まあ、ある部分がどうか、という点についてはノーコメントにしておこう。

朝食の出来上がりについて言えば、ベーコンが少し焦げているとか、卵の白身部分の端が薄くなりすぎてパリパリになっているとか、ケチをつけ始めたらいくらでもあるのだが、ちゃんと食事が完成しているのだから文句を言うことはない。 浩はこれくらいでも作れないのだから。


「おままごとの砂の団子と違って、食べられるからね。」と、妙なことを言う。まあ、こんな料理はおままごとみたいなものだ、と言いたいのかな。


「なんにしてもおいしそうだね。、いただきます。」そういうと浩は食べ始めた。

浩は、焼いたトーストにバターをつけ、半分に箸で切った目玉焼きとレタスを乗せ、マヨネーズをかけて二つ折りにする。浩はこの食べ方が好きだった。

「そうするなら、最初からサンドイッチがよかったのかしら。」アリサがちょっと残念そうにいう。パンに挟んだことにちょっと文句があるようだ。

「そんなこと言わないでよ。僕は、トーストを二つ折りにするのが好きなんだ。サンドイッチだと最初から切れてるよね。トーストを折って食べれば、折った面からはこぼれないから、これがいいんだよ。」横からは漏れるんだが。

浩は続ける。

「僕の好きな食べ方まで理解してメニューを作ってくれたアリサちゃんって凄いな。本当にありがとう。」

結構本心だ。

「た、大したことはないわよ。」そういいながら顔がちょっと赤い。


「アリサちゃんも食べてよ。学校に遅れるよ。」と浩は促す。実際はまだまだ時間はあるのだが。

「じゃあ、マネしてみるね。」アリサはそういうと、浩と同じように、トーストに具をのせて二つ折にする。

「落ちちゃって、意外に難しいのね。」

「慣れの問題だよ。まあ、お嬢様はこんなお作法に慣れる必要はないんだけどね。」

浩は慰める。

「あまりお嬢様なんで呼ばないでよ。私は私。ヒロくんの幼馴染のアリサちゃんだからね。」

身分はぜんぜん違うんだけどね。きっと、それを言うとアリサは気分を害するらだろう。


「うん、わかった。アリサちゃん。作った人のために、ちゃんと食べてね。…あ、作ったのはアリサちゃんだっけ。」と、ちょっとボケてみる。


「そうね。自分のためにもしっかり食べないとね。」あ、ボケが通じなかったかも。


朝食を食べ終わると、母、浩子が弁当0を差し出した。

今日は、昨日と違う、小さめのデザインのものだ。というよりおかずだけ入ったタッパーだ。そして、メインは透明のラップに包んだおにぎりということになる。

個別のラップに包まれて、おにぎりが4つ並んでいる。これが浩のだろう。

アリサのは二つ。

「おにぎりは、ラップで握ってるからね。」浩子が言った。

「最近の若い人は、他人が直接握ったおにぎりは食べられない、なんていう人も多いらしいからね。」

それは初耳だ。「へ~、そういうものかなあ。なんでなんだろう?」浩は聞いてみた。

「さあね。たぶん、他人が素手で触るのが嫌なんでしょ?だからラップで握ってるのよ。海苔を別においておけば、コンビニのおにぎりみたいにぱりぱりの海苔も使えるしね。

おかずはハンバーグがメインよ。ヒロくんの大好物ね。」なんたって浩のリクエストで昨夜食べたものだ。

「へ~、ヒロくんってハンバーグが好きなの?なんだかお子様みたいね。」アリサが笑う。

「いいんだよ。おこちゃまの舌でも。好きなものは好きなんだから。」浩は開き直った。


アリサはなぜか遠い目をした。

「好きなものは好き。そう、好きな人は好き。理由なんてないのよね…」ちょっと陰のある感じでつぶやいた。だがそんなアリサも魅力的だ。


浩は、そこには触れずにアリサに告げる。「さあ、準備して学校に行こう。」

鞄を取りに部屋に戻る。ベッドがぐしゃぐしゃのままだあ。普段は気にならないが、今日はなぜか気になり、シーツや布団を直した。布団のなかに何か硬い物があるのに気づいた。

手を伸ばしてみると、それは昨夜つか、いや読んだ「おっぱい天国」だった。

次回はちゃんと片付けよう。

浩は、表紙に載っているオレンジのビキニを着た巨乳ちゃんに誓った。

「また会おうね」と、巨乳ちゃんが言っている気がした。













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