第十九話 母の話は長くなるので途中で遮らないと延々と続く
家に戻ると、やはり誰もいなかった。
母、浩子は今日はパートの日だったはずだ。
会計事務所のお茶くみをしているはずだ。
彼女の年齢をはじめとする個人情報は所長さんしか知らないため、浩子のことを大学生バイトとか、花嫁修業中のお嬢様とか思っているメンバーもいるらしい。
この前、お客さんにお茶を出したら、いきなり、うちの息子の嫁になってくれないか、と聞かれ、さすがに面食らったと、うれしそうに言っていた。
わが母ながら、年齢不詳の魔性の女だ。
浩は鞄から弁当箱を取り出し、洗剤で洗う。そういえばアリサから弁当箱を返してもらわなかった。
まあ、中身はアリサが提供したものだし、自分の弁当箱はあるからいいか。
浩はそう思い、弁当箱を片付けて部屋に戻った。
浩は部屋のベッドに転がり、今日のことを思い出す。
幼馴染というのはどういうものか?改めて考えてみると、人によって違うような気もしてきた。
小さいころ仲良ければみんな幼馴染か?
幼稚園の同級生(っていうのかな?)はみんな幼馴染か、というと違うような気がする。毎日会ってたけどな。
じゃあ小学校の同級生はどうか?同級生だけなら違うな。クラスで仲がよかった友人は幼馴染か?そういう気もするし、違うような気もする。
毎日のように遊んでいた近所の子は?これはたぶん幼馴染というんだろう。男でも女でもきっとそういいそうだ。自分には「たまりちゃん」がいた。
異性を意識した最初の相手、なんだろうな。けっこんしてくれ、って言ったし。
よくもまあ、そんなことが言えるなあ。いまじゃあ絶対言えない。
まあ、当時は冗談や子供の考えなしの言葉で済んだ。でも、現在だと高校生とは言え、女の子だったら16歳から結婚できるわけで、冗談にならないな。
そういえば昔「赤とんぼ」の二番の歌詞の中に、十五でねえやは嫁に行き、というのがあったな。さすがに15じゃまだだろ、と思うけど明治とか大正時代なら15でも嫁に行ったのかもしれないな。あのころもし数え年使ってたら、14歳だろ?しかも明治大正時代は栄養も整ってないんだから、ほんとに子供みたいな感じだったと思う。
実際、普通に15で嫁に行ったのか?なんだか意地悪な姑にいじめられるとか、女中みたいな感じだったのかもな。そもそも、嫁に行くってことはアレするわけだけど、14歳相手じゃロリコンとか児童ポルノの世界だよな、今じゃあ。
そういえば、源氏物語って、紫の上が14歳くらいのときにしちゃったような気がする。おお、世界最初の児童ポルノだったのか…などと思いがどんどん拡散していってしまう。
時を戻そう、いや話を戻そう。
幼馴染って、やっぱり異性かな。というか、集団に異性が混じっている、くらいがいいのかもしれない。
昔は、地域コミュニティがあったから幼馴染ってたくさんいただろう。今は 少子化だし、子供のころから習い事行ったりしてるし、家のまわりで遊ぶといっても誘拐されるかもしれないからなかなかそういう機会もないのかもしれない。あれ?でも昔から人さらいっていたよな。あれ、人をさらってどこへ連れていくんだろう。子供の場合は奴隷として売られた?それとも臓器を…いや、考えるのやめよう。
要するに、幼馴染っていっても、そう簡単にできなくなりつつある今日この頃だ。もちろん塾とか学童で知り合いができて仲良くなり、幼馴染になることもあるのかもしれないんだけど。
「たまりちゃん」は幼馴染だ。それだけは確かだな。でも、うちが引っ越してしまったのでその後の消息はわからない。たまりちゃんのお母さんは働いていて、お父さんがいなかったから、よくうちに遊びに来ていて、夕食まで食べたりしてたよな。まあ、子供の食事なんて、ほとんど誤差の範囲内だからべつに食費がどうの、ということはなかったな。
ああ、そういえばたまりちゃんと一緒にお風呂に入ったことがあるような…あれ?なんだかいけない記憶のような気がするので、やめておこう。
ラノベではよく幼馴染って出てくるよな。主人公のさえない男性をなぜかかまってくれる優しい女性。ただ、主人公と結ばれることはほぼない。
幼馴染はかませ犬、っていう言葉があるくらいだ。
あまりに幼馴染の待遇が悪いから、単純に幼馴染と結ばれていちゃいちゃするだけの作品が「なろう」で出ているくらいだ。
実際、今になって「たまりちゃん」と再会したらどうなるのかな。彼女になってくれたりするんだろうか?でも、最初から、彼女は「けっこんは、おかねもちとするわ」と言ってたもんな。その割にはそのあとも遊んでくれた。おお、リアル魔性の女だ。遊び相手と結婚相手を分けてる。。それで、僕は遊ばれて捨てられたわけだ…ぐすん。
実際のところは、単純に引っ越して離れ離れになっただけなんだけどな。
そういえば、今日は糸電話はないんだ。ゆっくりできそうだな。
そう思ったときに、階下で、母、浩子が帰ってくる音がした。
夕飯はなんだろう。だんだん腹が減ってきたなあ。
浩は階下に降りて行った。
「お帰り、母さん。今日ア??パートだったんだね。」浩は声をかける。
化粧ばっちりの浩子が答える。「ただいま。そうよ。今日はお客さんが来なかったから、静かな一日だったな。お茶出ししないと、ヒマなのよね。まあ、先生が出かけてるせいもあるんだけどね。月初は、いつも先生はお客さんのところに行ってるのよ。だいたい一日2件から3件くらいね。先生がいないときにもお客さんからよく電話がかかってくるから、電話番してるの。でも、お客さんも先生の携帯にかけることが多いのよね…。」
これ、放っておくと一時間でも話し続けるやつだ。
「その話はもういいよ。晩御飯は何?」浩は遮った。
「そうねえ。あ、そういえば、今日はアリサさんは来るの?」浩子は楽しそうに言った。
「いや、今日は実家に帰ったみたいだ。来ないと思うよ。明日の朝も来ないんじゃないのかな。」浩が答える。
「あ、そうなの。晩御飯食べていけばいいのにね。でも私の料理じゃ口に合わないかもしれないけど。お弁当もつくらないでいいのね。あ、お弁当箱はもらった?」
話が飛ぶなあ。
「弁当箱はもらいわすれたよ。まあ明日は弁当はいらないんじゃないのかな。ご自宅には料理人もいるらしいよ。」「
それを聞いて浩子はうっとりした感じで答える。「ああ、憧れの料理人。まかせておけば、一流ホテルのフルコースが毎日食べられるのね。いいわね。」
「毎日そんなもの食ってたら、太っちゃうよ。アリサさんはスリムだから、そんなに食べてはいないと思うよ。まあ、毎日インスタントラーメンってことはないだろうけどね。」
「今日はお父さん、接待みたい。夕食要らないって。だから私とヒロくんだけよ。何が食べたい?」そういわれて、なんでもいい、と答えるのは最悪のパターンだ。
そうだねえ。ハンバーグはどう?昔、たまりちゃんが家に来た時、よく作ってたよね。」
さっきの話を思い出しながら浩は返事した。
「ああ、そうだったわね。マリちゃんが来てくれると、にぎやかになるし、ヒロくんの態度も露骨に変わるから面白かったのよね。アリサさんが昨日来た時、ちょっと思い出したな。家に女の子がいるって、いいのよ。むさくるしい男と違って、花があるし、楽しいのよ。」むさくるしくて悪かったな。
「水田さんとこも苦労していたからね。マリちゃんの食い扶持くらい、ほとんど誤差の範囲だから、来てくれて楽しかったのよ。週に2-3回は来てくれてたわね。
その時、よくハンバーグ作ったのよ。ヒロくん、よく覚えてるわね。あの頃、ヒロくんは結構好き嫌いが激しくて、食べないものが多かったのよね。そういうとき、ハンバーグなら必ず食べてくれたの。だから、ハンバーグをたくさん作って、冷凍してあったのよ。そういえば、マリちゃんと一緒にハンバーグを作ったこともあったわね。ヒロくんはすぐに飽きちゃったけど、マリちゃんは一生けん命ハンバーグをこねてくれたのよ。それに…」
あ、また長くなりそうだ。
「というわけで、ハンバーグよろしくね。」 浩はそういいうと、部屋に戻ることにした。「あら、部屋に戻るの? じゃあ、出来たら呼ぶわね。」浩子は言った。
浩子がそのあと何か続けてが、もう聞こえなかった。
浩子は独り言を言っていた。「水田さん、今頃どうしているのかしら。マリちゃんももう高校生よね。水田さん、再婚して引っ越したから、今どこにいるのかわからないんだけど、元気でいるといいわね。うちのヒロくんのお嫁さんにはなってくれなかったけどね…あ、最初から結婚はお金持ちとするって言ってたから、どうせ無理なのよね。」
ちなみに、浩は十七歳なので、まだ法律上結婚はできない。まあ、法律上結婚できるとしても、相手は居ない。年齢イコール彼女なし、の浩にそれを望むのは、母の高望みでしかない。
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